九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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感覚障害を呈した黄色靭帯骨化症に対する理学療法
~歩行障害に対して動的関節制御訓練および課題指向型訓練が奏功した症例~
*牛尾 周平*板井 幸太
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p. 243

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抄録

【はじめに】

黄色靭帯骨化症(OYL)は横断型の脊髄圧迫障害から感覚障害や運動麻痺症状を呈し、症状の進行に応じたリハビリテーション(RH)および予後予測を想定した支援検討が求められる。今回、OYLにて両下肢の運動・感覚障害を呈した症例に対し動的関節制御訓練(DYJOC)を用いた固有受容器へのアプローチと課題指向型訓練が姿勢調整と歩行速度に効果的であった為、考察を踏まえ以下に報告する。

【患者情報】

年齢:70歳台(男性) 主病名:胸椎黄色靭帯骨化症 現病歴:H27年12月左記診断にて他院で胸腰椎後方固定術-椎弓切除術施行した。術後28日にRH目的で入院となる(地域包括ケア病棟)。主訴:「腰から下の感覚が鈍っている。歩いている感じがしない。突然力が抜けるように膝が折れる」既往歴:60歳台 腰部脊柱管狭窄症(Th10,11,12)による椎弓切除術。

【評価】

初期(術後29日)⇒最終(術後50日)

Ⅰ.表在感覚:前足部(Rt4/10-Lt3/10)⇒(Rt7/10-Lt5/10)

Ⅱ.深部感覚:足 趾(Rt2/5-Lt2/5)⇒(Rt4/5-Lt2/5)

Ⅲ.立位保持:開眼片脚立位(Rt1.2秒-Lt1.0秒)⇒(Rt3.2秒-Lt2.0秒)

        開眼立位保持10.2秒⇒50.6秒

Ⅳ.MMT(Rt/Lt):股関節屈曲(3/3)⇒(3/3)、股関節外転(2/2)⇒(3/2)

  股関節伸展(2/2)⇒(3/2)、膝関節伸展(3/3)⇒(4/3)、足関節背屈(2/2)⇒(4/3)

Ⅴ.10m歩行速度(歩行車使用下)33.2秒⇒29.6秒、歩数32歩(Ltリーストラップ使用下) ⇒

  29歩(Ltリーストラップ使用下)、歩隔13.7cm⇒10.7cm、Rt歩幅58.3cm⇒60.3cm、

  Lt歩幅55.2cm⇒57.2cm

【考察】

本症例は両下肢の感覚障害・筋力低下から姿勢保持能力の低下をきたし、歩行時の躓きや転倒リスクを認め、そのことにより自宅復帰への阻害因子となっていると推察した。その為、DYJOCを用いて足底からの固有受容器を介した、迅速な神経・筋反応の協調により動的下肢関節の制御機能改善を目的に半足前荷重位訓練を実施した。また、課題指向型訓練による難易度を変化させた荷重練習を反復することで運動学習を促し姿勢アラインメント補整と歩行安定性向上を図った。運動パフォーマンスについて鵜飼は「段階的に設定し、反復することにより可塑性を促す必要がある」と報告している。その為、立脚初期から中期の動作に着目して両下肢支持で重心移動の少ない課題から開始し、前方へのステップにて支持基底面が狭く大きな重心移動を必要とする課題を取り入れ、実際の歩行場面を想定した練習を実施した。介入時はプログラムの実施順序を統一し、運動イメージの混乱と運動方法の定着を心がけ実施するよう指導した。また、症状の進行及び在宅の環境を想定して、Lt足関節制御による安定性向上を図るためリーストラップによる補助を検討した。

結果、足底からの触・圧覚情報を利用したbottom-upでの姿勢制御が効率的に行えるようになったこと、難易度を変化させた課題の実施により筋収縮が促通され、立位姿勢保持および歩行速度の改善に至ったと考える。

【まとめ】

今後は現在の運動機能に応じて、課題指向型訓練に基づく日常生活動作を想定した練習を反復して継続し、動作の効率化を高めることが重要と考える。また、OYLは進行が正確に予測出来ない疾患であるため、症状の進行に応じた在宅の環境調整及び視覚の情報による動作の指導が求められる。

【倫理的配慮,説明と同意】

今回の発表に際しては、ヘルシンキ宣言に準じ、本人と家族に十分な説明と同意を得ている。

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