九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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関節リウマチに対する人工肘関節置換術2例の治療経験
*坂本 竜弥*田崎 和幸*野中 信宏*山田 玄太*油井 栄樹*林 寛敏
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p. 247

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抄録

【はじめに】

関節リウマチ(以下RA)に対する人工肘関節置換術(以下TEA)は除痛効果、肘関節屈曲可動域の改善に伴うADL動作の獲得に有効な治療法である。しかし肘関節伸展可動域は屈曲可動域の改善に比べ制限が残存する報告が散見され、術後セラピィでもその対応に苦慮するところである。今回、術後早期から肘関節伸展、前腕回内外運動を含めたセラピィを実施したRAのTEA施行例2例を経験したため、若干の考察を加え報告する。

【対象】

症例1:53歳の女性、右利き、罹患手は左、Larsen grade3。仕事は野菜の仕分け作業と梱包。術前評価にて自動ROM(関節可動域、単位:度)は肘関節(屈曲/伸展)100/‐50、前腕(回外/回内)85/75、VAS(安静時/運動時)は0/50、JOC scoreは46点であった。症例2:70歳の女性、右利き、罹患手は右、Larsen grade3。ROMは肘関節105/‐45、前腕95/80、VASは0/50、JOC scoreは49点であった。両症例とも表面置換型であるK-NOW人工肘関節に置換し、置換後に肘関節可動時の不安定性はなかった。

【術後セラピィと経過】

術後は肘関節90度、前腕中間位でシーネ固定された。術後翌日より肩・手指関節自他動運動、術後3日後より前腕回内外自他動運動を開始した。初期評価時、前腕ROMは症例1は25/75,症例2は80/35であった。術後1週経過後より肘関節の側方不安定性に注意しながら肘関節自動屈曲・伸展運動を開始し、訓練後にはアイシングを行った。術後2週経過時にシーネ除去を除去して肘関節他動屈曲・伸展運動を開始した。この時のROMは症例1は肘関節90/-65、前腕50/85、症例2は肘関節110/-65、前腕90/75であった。また身の回り動作での患手使用を許可し、2.5kg以上の物の把持は禁止とした。退院時のROMは症例1(術後6週経過時)は肘関節110/‐40、前腕75/85、症例2(術後5週経過時)は肘関節130/‐45、前腕90/85であり、以後外来リハビリでのフォローとなった。

【結果】

最終評価時、症例1(術後6ヶ月経過時)のROMは肘関節125/‐25、前腕95/85、VASは0/10、JOC scoreは87点であり。仕事は事務職へ配置転換した。症例2(術後2年11ヶ月経過時)のROMは肘関節140/‐15、前腕90/85、VASは0/0、JOC scoreは93点であった。両症例とも肘関節の不安定性はなく、尺骨神経麻痺や骨折、脱臼などの合併症もなかった。

【考察】

TEAの後療法では肘関節の不安定性を生じぬよう屈曲運動優先に施行され、また上腕三頭筋の手術侵襲も大きいために伸展制限が残存しやすい。そこで今回肘関節周囲の軟部組織の修復が強固で、かつ可動時の安定性が確認できれば、後療法では従来より早く伸展運動が開始できるのではないかと考え、伸展運動を屈曲運動と同時期に開始した。両症例とも術中の安定性は確認されたが、「K‐NOW人工肘関節は尺骨コンポネートが段付形状で、かつ尺骨の内側はポリエチレンが露出した形状のため術後は外側によりストレスがかかり易い」(宮﨑洋一、2009)。そのため肘関節運動時は肘関節を内側から支持しながら実施し対応した。前腕回内外に関してもセラピィ開始時は橈骨頭切除による手術侵襲により2例とも制限が生じていた。先行研究では回内外運動はギプス除去時や肘関節運動開始時より開始され、獲得ROMもそれぞれ35~70度と制限を残す報告が多い。そのため回内外運動も肘関節・橈尺関節の不安定性に注意し、早期から拘縮予防・改善に努める必要があると考えている。今後も症例経験を積むとともに長期治療成績も調査していきたい。

【引用文献】

宮﨑洋一:K-NOW人工肘関節の使用経験.第29回九州手の外科研究会抄録.長崎,2009.

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者には本報告における十分な説明を行い、同意を得た。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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