九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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ICU入室患者におけるNMESに浮腫が与える影響
細胞外水分比との関連
*山野 太嗣
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p. 251

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抄録

【目的】

ICUにおける筋力低下の予防策として神経筋電気刺激療法(Neuromuscular Electrical Stimulation: NMES)が着目されている。しかし、電気刺激療法の効果は先行研究の報告でもばらつきがありコンセンサスが得られていない。その原因の一つに電気刺激への反応性の良否が報告されている。特に浮腫を有する患者では電気刺激への反応が不良となりやすいが、本邦では浮腫と電気刺激の関連はほとんど報告がみられていない。本研究の目的はNMESによる筋収縮の反応と浮腫との関連を調査することである。

【方法】

2016年12月~3月に当院ICU入室中の患者12名に対しNMESを実施した。NMESではSOLIUS(ミナト医療)を使用した。電極は両側の鼡径部、内側広筋・外側広筋、腓腹筋、アキレス腱部にあて、時間は30分間実施した。刺激強度は80mAを上限とし、良好な収縮が確認できる強度、もしくは疼痛が生じる強度までとした。

筋収縮、浮腫に関しては先行研究で使用されていたスケールに基づき5段階評価した(筋収縮スケールでは良好な収縮を5、収縮なしを1、浮腫スケールでは重度の浮腫を4、浮腫なしを0と表した)。評価はより筋収縮反応の良好であった大腿四頭筋で行い、筋収縮スケールで4以上を良好な筋収縮と定義し、4以上の反応を示した被験者を応答群、3以下の収縮であった被験者を非応答群に分類した。また、IN BODY S20(IN BODY社)を用いNMES実施前に細胞外水分比(ECW/TBW)を測定した。

【結果】

12名中7名が応答群に分類された。応答群の平均刺激強度(標準偏差)は39.4mA(±9.54)、非応答群の平均刺激強度(標準偏差)は65.0mA(±4.69)であった。

応答群と非応答群の細胞外水分比を対応のないt検定で分析した。応答群の細胞外水分比は非応答群に比べ優位に低い値であった(P<0.05)。相関関係はスピアマンの相関係数を用い、浮腫スケールと細胞外水分比には正の相関を認め(r=0.91)、筋収縮スケールと細胞外水分比の間に負の相関を認めた。(r=-0.74)

【考察】

本研究の結果、浮腫を有するICU入室患者は電気刺激への反応性が低下していることが分かった。これはJohanらの報告と同様の結果であった。先行研究においては浮腫の程度を浮腫スケールでのみ評価していたが、今回の研究では細胞外水分比を測定し細胞外水分量を数値化することで、より浮腫の影響を明確にできたと考える。

Harperらの報告でも浮腫を呈する患者では浮腫を呈しない患者と同じ筋収縮を得るためにより高い電流強度が必要だったと報告している。

浮腫により周径が増大することで電流密度(単位面積当たりの電流量)が低下する。それにより神経への通電が減弱することが考えられる。また皮下に細胞外液が貯留することで皮膚から運動神経までの距離が延長し電流が神経まで到達しない可能性が考えられた。

本研究では徒手による圧迫により浮腫を5段階に分類した。徒手による圧迫での浮腫の評価は臨床でも多用される評価である。今回、機器による細胞外水分比の評価も同時に実施したが、徒手で評価した浮腫スケールと機器で測定した細胞外水分比には相関が認められ、徒手による浮腫の評価の信頼性の高さが示唆された。NMES導入の際には徒手による浮腫の評価を実施することでより効果的な介入につなげられる可能性がある。

【まとめ】

重度の浮腫を有する患者はNMESへの反応性が不良である可能性が高い。 徒手での圧迫による浮腫の評価は有用である可能性がある。

【倫理的配慮,説明と同意】

当院では入院時に全症例に対し匿名化されたデータを研究目的に使用することに対し書面にて説明と同意を得ており本研究も個人を特定されない匿名化されたデータのみ使用した。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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