九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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対側発症リスクを有するAFF罹患患者への一治療経験
*衞藤 貴郷*遊佐 真改*山村 沙和*枝村 和也*徳丸 一昭
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p. 26

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抄録

【諸言】

現在、骨粗鬆症患者は全国で1300万人にも上ると言われる状況下、骨脆弱性を背景とした非定型大腿骨骨折(Atypical femoral fractures:以下AFF)を罹患した患者の治療に携わる機会を得た。AFFは大腿骨骨幹部に単純X線画像にてストレス骨折様の像を呈し、大半に大腿骨外弯を認める。また高い対側発症率を有するとの報告もある発生頻度が全大腿骨骨折の1%と極めて稀な骨折である。本疾患を罹患した患者の治療に際し、対側下肢のAFF発生防止の観点から歩容の改善、歩行能力の向上に重点を置き足底板やテーピングを用いてアプローチを行った結果、良好な結果を得られたので若干の知見を加え報告する。

【症例】

80歳代の女性。発症の2ヶ月前から右大腿部痛訴えあり。予防的OPE実施の数日前に段差昇段時に発症。右AFFと診断され手術目的で入院。既往として骨粗鬆症があり、3年前から他院にてビスフォスフォネート製剤(骨吸収抑制剤:以下BP製剤)にて服薬治療中であった。当院受診後服薬中止。

【経過】

髄内釘による骨接合術施術。術後2週間患肢免荷。術後15日目から部分荷重開始。術後41日目全荷重許可。その後、段階的に歩行形態を上げ、術後83日目1本杖自立にて自宅退院。

【評価】

術前の単純X線画像にて両大腿骨共にAFF発症高リスク領域の外弯変形を認め、術後も非術側には外弯変形残存、骨幹部外側に骨肥厚(+)。特記すべき理学的所見は胸椎後弯増強、腰椎前弯減少、骨盤後傾、1.5㎝の脚長差(右>左)、両膝関節内反変形(KL分類2)、足部ハイアーチ(右>左)、右中殿筋筋力低下(MMT3)である。更に歩行訓練開始時には、左遊脚中期~踵接地時の墜落性跛行、左立脚期の過剰な足関節制御、左踵接地時の重心線の内方偏位、右足圧中心の外方偏位といった問題点を抽出した。

【結果】

即時効果として墜落性跛行は消失、左踵接地時の重心線の内方偏位も改善。5?歩行は10.7秒から8.7秒に短縮し、歩幅も35.7㎝から41.9㎝に向上。杖歩行訓練開始後2週間で裸足歩行でも墜落性跛行消失。術後半年時点では、70歳代の平均歩行能力と同程度の数値を示した。

【考察】

義家らはAFFの発症原因をBP関連型、薬剤・合併症型、外弯型、更にそれらの混合型に分類している。また本症例が該当する混合型(BP関連・外弯)の発生機序として、鈴木らは大腿骨外弯という異常なアライメントが大腿骨骨幹部に応力集中を生み、微細な骨損傷を生じさせ、更にBP製剤による骨のリモデリング抑制が、この微細な骨損傷の蓄積を加速させ発症に至らしめると述べている。その発生機序と評価から、治療戦略として対側発症を防ぐ事を目的に、左大腿骨弯曲部への応力集中の低減を最重要課題とした。この課題達成の為に大腿骨への荷重負荷の軽減、異常な重心移動の修正、過剰な筋収縮の抑制、左立脚期の大腿骨骨幹部と重心線の距離の短縮を図る必要があると考え、右手での杖の使用、右中殿筋の遠心性収縮訓練の他、左足部には足底板の作成・適応、右足部へはテーピングによる修正等を行った。以上のアプローチの結果、即時的にも長期的にも歩容の改善、歩行能力の向上を獲得し良好な結果を得られたものと考える。

【まとめ】

 本疾患の特性上、今後も対側発症リスクは残存するが、本症例へのアプローチにより、良好な結果が得られている事から、外弯型、外弯を有する混合型AFFの対側発症リスクに対する理学療法士の積極的介入は有意義であり、その発生機序を理解し、アプローチを行う重要性を再認識することができたと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

個人情報保護を遵守した症例研究である旨を本人に説明し書面にて同意を得た(平成27年10月1日)。

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