九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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重度下腿骨開放骨折の理学療法について
広背筋弁移植を施行したGustiloⅢB開放骨折の1例
*青野 達*松垣 亨
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p. 28

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抄録

【目的】

下腿骨骨折は臨床で経験することの多い骨折の1つである。脛骨は皮膚の直下に骨が存在しているため開放骨折を起こしやすく、GustiloⅢB以上の開放骨折では軟部組織の損傷あるいは挫滅による感染や遷延癒合、偽関節のリスクが高く治療が難渋する症例が多い。今回、脛骨骨幹部開放骨折症例に対し遊離筋弁移植と骨接合術施行後、骨折部の遷延癒合を起こした症例の経過報告と術後理学療法について考察する。

【症例提示】

62歳男性。原付バイク乗車中に乗用車と衝突し当院へ緊急搬送となった。右脛骨骨幹部開放骨折(Gustilo分類:ⅢB AO分類:C3)の診断にて同日にデブリードマン、創外固定術を施行した。粉砕した骨片は汚染により破棄、開放創は下腿内外側の2カ所でみられヒラメ筋線維の一部が挫滅し、また腓骨神経不全麻痺の合併もみられた。術翌日より創内持続洗浄療法を開始、10日後に広背筋弁移植術、骨移植術、創外固定術(リング式創外固定器に変更)を施行。術後は広背筋弁の生着のため2週間の安静が必要であったが、その間は足関節尖足防止と下腿血流改善を主に理学療法を実施した。術後2週より1/3荷重を開始、術後10週より1/2荷重へ荷重量を増加させ荷重・歩行練習を継続した。その後骨折部の明らかな転位がないものの骨癒合を得る事が出来なかったため、術後4ヶ月に骨移植を行い創外固定をプレート固定に変更した。術後は骨癒合の状態をみながら術後2ヶ月より部分荷重を開始、術後4ヶ月より全荷重を開始し、足関節拘縮などの機能的な問題はなく受傷後8ヶ月で自宅退院となった。

【考察】

本症例は腓骨神経不全麻痺に加え広背筋弁生着のため術後安静が必要となったため、足関節拘縮などの機能障害の発生が危惧されたが、術後早期より足関節尖足防止を中心とした理学療法を実施したことで足関節の機能障害を起こすことなく治癒することができた。また骨癒合が遷延したが化骨形成の状態を評価しながら適切な荷重を行うことで、骨折部の転位をきたすことなく機能障害を予防することができ術後早期に自宅退院が可能となった。

脛骨の遠位1/3は解剖学的に筋の付着がほとんどなく、骨癒合の過程で周辺組織からの血液供給が十分に得られにくく遷延癒合や偽関節が起こりやすいとされる。GustiloⅢB以上の脛骨開放骨折では前述した解剖学的特徴に加え軟部組織損傷により、骨折部周囲の血行が遮断されている可能性が比較的高く骨癒合に時間を要す。術後理学療法を実施するにあたり骨折部の損傷程度の把握はもとより、軟部組織の損傷程度とその回復状態を考慮し、術後早期は軟部組織の回復を妨げないように下肢機能障害の予防に努め、骨癒合に程度に合わせた荷重・歩行練習を実施していくことが重要である。

【結語】

重度下腿骨開放骨折の遷延癒合症例について経過と考察を述べた。GustiloⅢB開放骨折においては早期に足関節尖足防止を中心とした下肢機能障害の改善と予防を行い、骨癒合の程度や軟部組織の回復に応じた荷重・歩行練習を行うことが重要であると考えられる。

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、症例報告を行う意義や個人情報の保護など対象者に十分な説明を行い同意を得た。また利益相反に関する開示事項はない。

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