九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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恥骨骨融解症(Pubic osteolysis)を呈したリハビリテーションの経験
*井上 幸輝*岡本 さやか*村中 進*小松 智*平川 信洋*小峯 光徳*鶴田 敏幸
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p. 32

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抄録

【はじめに】

恥骨骨融解症(Pubic osteolysis以下PO)は恥骨部の疼痛・違和感にて発生し、X線にて恥骨に骨融解像を認め、特に悪性腫瘍との鑑別が問題となる疾患である。その発症は明らかな受傷機転を有するものと誘因のないものとで半々を占めると報告されている。今回、仙骨骨折後にPOを発症し歩行障害と原因不明の膀胱直腸障害を生じた症例のリハビリテーション(以下リハ)を経験したので報告する。

【症例】

80歳代女性、独居。主訴:自宅復帰、排泄管理の自立。既往歴:RA、骨粗鬆症。現病歴:平成27年9月に玄関にて膝に力が入らず左臀部から転倒。徐々に臀部の疼痛増強したため当院受診。仙骨骨折と診断され入院となる。その後症状安定していたが、鼠径部痛と下肢痛が出現し、徐々に尿・便失禁も出現した。X線とMRI所見にて恥骨の骨破壊像を認め、POと疑われた。確定診断の為他院へ転院し、1か月後加療の為再度入院となる。

【経過】

入院時は、Barthel Indexは0点と全介助状態であった。疼痛が強いためベッドサイドにてリハ開始となった。リハ時は各種動作にて腹圧上昇し尿・便失禁を生じるため、可能な限り腹圧上昇を抑えながら行った。1か月後には棟内廊下(50m)歩行器にて近位監視下で可能となった。この時期の禁忌として恥骨に負担となる股関節の運動、体幹回旋、長時間の座位や立位、歩行などであり、疼痛の範囲内で管理することが重要であった。3か月後X線所見にて骨融解像に変化なく、疼痛の増悪も認められないため股関節可動域訓練、体幹回旋、平行棒内歩行訓練、シルバーカー歩行訓練開始と負荷量を上げ、4か月後には歩行器にて移動自立し、現在はT-cane歩行自立レベルでの自宅復帰を果たした。

【考察】

本症例は、骨粗鬆症が基盤にあり転倒を機転として発症したと思われる。今回の主な治療方針は、安静を保ちながら恥骨に直接的に刺激が加わらないこと、骨盤開大による骨癒合の遅延を防止するために骨盤ベルト常用しながら負荷量を疼痛の範囲内で慎重に進めていくことであった。

体動や歩行時に尿・便失禁が起こり、リハへの意欲の低下や拒否等があった。それらに対して看護師と相談しリハ時間の前後にトイレ動作の時間を設けるよう調整したり、女性理学療法士と協力しながら心理面のサポートを行った。その後徐々に活動量が増加し、ADL拡大により患者自身で出来ることが増えたことが意欲向上に繋がった。運動負荷量に関しては、医師、看護師、理学療法士で話し合い、X線所見や患者のADL状況等を踏まえて調整をおこなった。その結果、先行研究と同様の期間でT-cane歩行自立にて自宅復帰が可能となった。今回の症例は疼痛が長期間持続し患部の免荷による活動性の低下及び膀胱直腸障害による心理的ストレスに対して、医師を中心にコメディカルが積極的に介入することにより意欲の低下を防ぐことが出来たと考える。POは発症から寛解までに長期間を要することから身体的機能のみならず、心理面のアプローチが重要であると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

症例には、本研究の調査内容や起こりうる危険、不利益などを含め説明し、また、個人情報に関しては、学会などで研究結果を公表する際には個人が特定できないように配慮することを説明し同意を得た。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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