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【はじめに】
日本透析医学会統計調査資料によると,2014年時点の透析患者は32万人を超えさらに年々増加傾向にある。透析患者は運動不足や透析液中への栄養素の喪失から陥るサルコペニアが,生命予後と関連することが報告されている。サルコペニアに対する治療法は運動療法・栄養療法があるが,透析患者に対しその効果を検証した報告は少ない。
【目的】
当院の透析患者におけるサルコペニアの有病率と低栄養や運動能力低下に対するアミノ酸製剤補充や運動療法の効果を検討する。
【方法】
対象は65歳以上の外来透析患者女性20名(平均年齢78.4±1.6歳,平均透析歴8.4±1.9年)とした。今回,アミノ酸製剤補充のみを行った群をアミノ酸群とした(n=7)。アミノ酸製剤補充と運動療法を行った群をアミノ酸+運動群とした(n=6)。アミノ酸製剤補充,運動療法未介入群をコントロール群(n=7)とし,介入前後での栄養状態と運動能力を比較した。アミノ酸群は味の素アミノケアゼリーロイシン40(ロイシン1200㎎配合)を2回/日服用した。アミノ酸+運動群は,上記アミノ酸製剤に加え透析中に理学療法士の監視下にて3回/週の運動療法を実施した。運動内容は透析開始30分~1時間後よりセラバンドを使用したレジスタンス運動とベッド上背臥位での自転車こぎを計30~40分間行った。運動強度はBorg指数11~13レベルと安静時心拍数+20拍/分を用いた。評価は,握力,片脚立位保持時間,10m歩行時間,6分間歩行テスト,骨格筋量指数,ヘモグロビン,尿素窒素,クレアチニン,Kt/V,geriatric nutritional risk index(以下GNRI)を測定し2ヶ月後に再評価を行った。
【結果】
介入時は,20名中12名(アミノ酸群6名・アミノ酸+運動群4名・コントロール群2名)がサルコペニアの診断基準を満たしていた。コントロール群では握力が介入前14.5±3.8kgから2ヶ月後13.0±4.2kgまで低下した(p<0.05)。アミノ酸群・アミノ酸+運動群の握力は維持されていた。アミノ酸群ではGNRIが介入前86.9±5.3から2ヶ月後88.6±5.5と改善を認めた(p<0.05)。アミノ酸+運動群では6分間歩行テストが介入前304.4±97.2mから331.8±124.0mと向上した(p<0.05)。今回の結果では,2ヶ月後でのサルコペニアの改善は認めなかった。
【考察】
European Working Group on Sarcopenia in Older People(ESWGOP)は,80歳を超える高齢者のサルコペニア有病率は11~50%に及んでいると報告している。当院においては60%と半数以上がサルコペニアの診断基準を満たしており,透析患者がサルコペニアの有病率が高いことを認めた。また高齢者がアミノ酸を摂取することで筋力の維持に繋がることは報告されているが,握力に関してはコントロール群で低下を認めたことから,透析患者に対してもアミノ酸製剤補充を行うことにより筋力を維持できることが示唆された。さらに運動療法を同時に行うことで運動耐容能の向上を認めた。今回,サルコペニアの改善には至らなかったが,アミノ酸製剤補充や運動療法を行うことで栄養状態や運動能力の改善を認めた。したがって,透析患者のサルコペニアに対しての栄養療法・運動療法は有効であると思われる。本研究の制限因子として被験者の数が少ないことと検証期間が2か月間と短いことである。今後は,より長期的で後方視的な検証を行う必要がある。
【まとめ】
アミノ酸製剤補充と運動療法は有効であり,サルコペニアを改善できる治療法となる可能性が示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院の倫理委員会の了承を得た(承認番号201502)。対象者には十分な説明と同意を得,個人情報保護に配慮した。