九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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当施設における移動手段の選定に影響を及ぼす因子の検討
*當寺ケ盛 孟
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p. 61

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抄録

【目的】

入所利用者の移動手段の決定は在宅復帰に向けて早期に判断すべきものである。しかし、歩行においては当然転倒リスクが伴うため、その判断は慎重にならざるを得ない。臨床の場においてこの移動手段の選定は個々のセラピストまたは複数のセラピストの判断により決定されることが多いが、経験年数等からスタッフ間での判断基準のバラツキがあることも少なくない。そのため当施設における実用的な移動手段の判断は運動評価を中心に多職種間でカンファレンスを行った上検討されてきた。そこで今回、判断に一定の基準を持たせ、より信頼性を高めることを目的とし当施設においての移動手段と運動評価、認知機能評価の項目を統計学的に分析し、移動手段に影響を及ぼす因子の検討を行った。

【方法】

対象は平成26年3月~平成28年2月の期間に当施設入所を利用した整形外科疾患を有する70名である。対象者を施設内における移動手段によって車いすを使用する車いす群、歩行補助具や見守りにて移動する歩行群の2群に分類し目的変数とした。そして、定期的な評価項目である握力、いすからの立ち上がり動作、立位保持手すりなし、立位保持手すりあり、開眼片足立ち、座位ステッピング、立位ステッピング、MMSEを説明変数として2項ロジスティック回帰分析(変数増減法)を行い、2群の判別に影響する因子について検討した。

【結果】

2項ロジスティック回帰分析の結果、有意水準5%で選択された変数は、いすからの立ち上がり動作、立位ステッピング、立位保持手すりなしであった。偏回帰係数はいすからの立ち上がり動作0.5103、立位ステッピング0.1577、立位保持手すりなし0.0355であった。また、オッズ比はそれぞれ1.6657、1.1708、1.0361であった。回帰式の有意性はP値1.2E-07、判別的中率は76%であった。

【考察】

今回の結果から、整形外科疾患を有する入所者の移動手段に影響を及ぼす因子として、いすからの立ち上がり動作、立位ステッピング、立位保持手すりなしが挙げられた。これらの評価項目の向上は歩行補助具を用いた歩行など上位の移動手段獲得を目指す上で重要な因子であると考えられる。また、今回得られた移動手段を判別する回帰式は、入所初日より安全な移動方法を判断する際の指標として有用であると考える。さらに、定期的な評価の結果から現段階での移動方法が適切であるかどうかを判断するための基準ともなり、転倒リスクの判断材料になると考えられる。本研究のように一定の判断基準を設けることで、移動手段として歩行を望む利用者に対し、基準を明確に提示することが可能となるだけでなく、職種や経験年数による判断のバラツキが多少なりとも緩和されると考える。そして、この統計学的な結果を基礎として、多職種でのカンファレンスにて実用的な移動手段を検討することで、安全で活動的な苑生活を提供することができると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は当施設倫理委員会の承認を得て実施した。

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