九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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脳炎後のてんかん重積発作に対する鎮静持続により早期離床に難渋した症例
*池田 千恵
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p. 60

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抄録

【はじめに】

 今回、脳炎後にてんかんが重積化し、鎮静薬の長期投与を要した症例を担当した。そこで、一般的離床基準に加え、本症例に対する基準を医師と設定し有害事象なく離床が進められ、自宅退院となったため経過を含めて報告する。

【症例紹介】

 本症例は大学在学中の20歳代前半の女性。発熱後に自宅にて意識レベル低下、全身性強直性痙攣が出現し、同日当院神経内科に入院した。自己免疫性脳炎と診断され、入院後も痙攣発作が頻発して呼吸状態増悪したため人工呼吸器管理となった。鎮静・抗てんかん薬、抗生剤が投与され、ステロイドパルス療法、血漿交換療法が施行されたが痙攣発作は消失せず、14病日には気管切開術が施行された。

【理学療法初期評価】

 理学療法(以下PT)は12病日に開始した。人工呼吸器の設定は同期式間欠的強制換気(SIMV)モードで、プロポフォール130mg/h、ミゾダラム20mg/hの鎮静薬が投与されており、Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)は-4、Glasgow Coma Scale(GCS)はE1、VT、M2であった。一般的離床基準はRASS>-3、FiO2<0.6、PEEP<10cmH2O、不整脈がないこと、昇圧剤を使用していないことなどが挙げられている。今回、呼吸・循環動態は、離床基準を満たしていたが、鎮静状態(RASS-4)は、離床基準を満たさない状態であった。また、四肢体幹に関節可動域制限はなかった。

【離床基準及びリスク管理】

 49病日に意識状態は改善(GCSはE4、VT、M4、RASS+3)し、一般的離床基準は全て満たしていた。そこで主治医と協議し、一般的離床基準に加え、本症例独自の離床基準として体温が38℃以下、RASSが+4未満、頻繁に認めていた顔面痙攣の増悪がないこと、全身性発作がみられないという基準を設定し、離床開始の指示を受けた。この基準に従い離床を進めたが、訓練時以外には全身性発作を認めることがあり、状態に応じてベッド上での訓練へ変更を行った。また状態把握のため呼気終末炭酸ガス濃度や電解質、血糖の変化も確認した。

【経過・最終評価】

 初回離床時の起居動作は全介助、端座位も理学療法士2名での介助が必要であった。56病日からミゾダラムが減量され、その度に一時的な発作の出現はあったが、69病日には首振りで意思表示が可能となり起立訓練を追加した。その後プロポフォールも減量され、76病日に人工呼吸器離脱となり、102病日に歩行器歩行訓練を開始した。鎮静薬投与は104病日に終了となり、抗てんかん薬の内服を行いながら積極的なPTが可能となった。最終評価時(221病日)は独歩自立、6MWTは500m、Barthel Indexは100点で自宅退院となった。

【考察】

 成人てんかんにおける薬物治療ガイドラインでは、薬物療法と並行したリハビリテーションの必要性が述べられているものの、急性期からの離床に関する基準は確立されていない。本症例においても発作が頻発し、長期的な人工呼吸器管理を要しており離床に難渋したため、人工呼吸器関連肺炎や長期臥床による廃用性筋力低下、関節拘縮などの二次的障害が懸念された。そのため主治医と相談し、一般的な離床基準に加え意識障害を伴う発作へと波及しやすい状態に配慮した離床基準を定め、血液検査なども参照しながらPTを実施した。また、医師や看護師と日々の心身状態について密な情報交換を行い、排痰時間の調整や訓練内容の変更を適切に行ったことで、二次的障害の改善とその後の再発予防、そして有害事象なく離床が可能となり、さらに介助量軽減に伴った病棟での日常生活動作の獲得が好結果につながったと思われた。

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告はヘルシンキ宣言に則り患者本人への説明と同意を得た。

また本報告に対する利益相反はなし。

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