九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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健常成人における階段昇降の下肢・腹筋の筋活動
*冨田 愁*山﨑 博喜
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キーワード: 階段昇降, 腹筋, 筋電図
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p. 7

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抄録

【目的】

高齢者の日常生活活動の中で、階段昇降は非常に難易度の高い動作であるが、階段昇降が可能である身体機能を獲得することは、手段的日常生活動作に影響することが考えられる。そのために、階段昇降における研究は多数なされている。現在までに、主に下肢の運動学と動力学的研究が主であり、体幹に関しての分析は見当たらない。したがって、本研究では、基礎データとして若年者の階段昇降動作時の下肢、体幹の筋電図学的分析を行い、臨床に帰結することである。

【方法】

対象者は正常成人男性5名、正常成人女性2名の計7名である。高さがそれぞれ異なる台を6つ使用し、6段の階段を再現する。被験者は階段昇降動作を一足一段とし、動作遂行速度は自然速度とした。被検筋は右外側広筋(以下:VL)、右腓腹筋外側頭(以下:GCL)、右外腹斜筋単独部位(第8肋骨部位:EO)、右内腹斜筋(以下:IO)、の4筋とし、無線式EMG測定装置EMG master(メディエリアサポート企業組合社製)を用いて、パーソナルコンピューターに取り込んだ。また、筋電図の記録は第一中足骨頭に貼付したフットスイッチ信号から1階段昇降周期分のデータを1回の階段昇降から2つ抽出した。なお、被験者一人あたりの階段昇段、降段動作をそれぞれ3回ずつ実施し、その平均を1階段昇降周期とし算出した。各被験者の1階段昇降周期時間を100%に換算しており、階段昇降時の%IEMGは全て各筋の最大随意収縮時のIEMGで補正し、相対的IEMGとして算出した。

【結果】

昇段時の結果として、まずVLが踵接地から荷重応答期にて%MVCに対する40%程度の筋活動がみられた。その後減少し、遊脚中期で再度活動を高めた。GCLでは立脚中期で40%増加し、その後減少した。EOでは立脚中期から立脚後期で26%程度活動を高めた。IOは立脚中期で最も高値を示したが、最高値で18%程度であった。また降段時の結果はまず、 EOは踵接地から荷重応答期が%MVCに対する30%程度の筋活動の値を示し、その後、立脚中期でVLが25%、GCLでは24%の活動がみられた。

【考察】

昇段動作では,踵接地から立脚中期にかけてVL、GCLの値は高値を示していた。これは、立脚肢への荷重の増大に伴う身体質量の保持、昇段するための身体質量重心の上昇を図る下肢伸展モ―メントの生成によるものだと考えられる。EOは遊脚相にて高値を示した。特に左脚肢への重心移動時に値が高まっていることから、階段昇降動作における上半身身体質量中心の制御に貢献している可能性が考えられる。降段では、重量の受け入れから降下制御相においてVL、GCLの値が高値であった。このことは、立脚肢への荷重負荷の吸収、または身体質量重心の制御を下肢伸展モーメントが担っているためと考えられる。EOでは、重量の受け入れから降下制御相の場面において、VL、GCLの値より高値を示していることから、階段降段動作時の身体制御では、下肢のみならず腹筋における重要性が高い可能性が示唆された。

【まとめ】

階段昇降動作においては、下肢のみならず腹筋の制御も重要であることが示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者には検査実施前に研究についての十分な説明を行い、研究参加の同意ならびに結果の使用について了承を得た。

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