九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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自己表出の少ない重症心身障害者が創作活動をきっかけに積極的になれた事例
ミサンガ作りを通して
*南里 幻香
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p. 84

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抄録

【はじめに】

重症心身障害者の中には、他者との関わりを好んでいても自己表出の仕方が分からず、受身的になっている症例は少なくない。今回、他者との関わりに対し受身的であった症例が作業療法(以下、OT)で行ったミサンガ作りを通して関わりの段階を踏み、積極的に話せるようになった。その経過に考察を加えて報告する。尚、この報告は本人と保護者および当園の倫理委員会の承諾を得ている。

【症例紹介】

30代男性(以下、A氏)。診断名は脳性麻痺(痙直型四肢麻痺)、Pelizaeus-Merzbacher 病。横地の分類A3。絵画語彙発達検査の語彙年齢は5歳2か月。脳性麻痺児手指操作能力分類システム(MACS)Ⅲ。脳性麻痺児粗大運動機能分類システム(GMFCS)レベル5。FIM52点、Barthrl Index 35点。当園に入所されており、余暇時間には趣味である折り紙や塗り絵を行うことが多い。

【作業療法評価】

他者と関わることを好んでいるが、自発的な関わりはなく、話したい人をみつめていることが多い。自分の思いや考えは明確に持っているものの、他者から話しかけられると応答の仕方に困り、首を傾げることが多い。食事や排泄等の生活場面に必要な介助も、病棟職員(以下、職員)からの声掛けを待つなど受身的である。OTで作製した作品を職員から褒められることがA氏の自信へとつながっており、自ら作品を披露しようとすることもあるが、どのように関わって良いか分からず披露できない。気づいた職員が「上手にできたね。」と声掛けをするとうなずいて応答するのみである。

【目的】

A氏が自信を持っている創作活動をコミュニケーションツールとし、職員へ積極的に話しかけることができる。

【方法・結果】

〈第Ⅰ期:職員の声掛けに対し、定型文での返答がみられるようになった時期/1~2ヶ月間〉

創作活動としてミサンガ作りを行った。A氏が困難な動作を補うためにミサンガ台を作製し、OTで台の取り扱いと声掛けへの返答を練習した。ミサンガ作りは余暇時間に職員の多い病棟ホールで行い、職員とのやり取りが行えるようにした。作る様子を見た職員から「上手だね。」と声を掛けられると、「どうも。」と定型文での返答がみられるようになった。

〈第Ⅱ期:A氏から職員へ定型文で声掛けができるようになった時期/3~4ヶ月間〉

ミサンガ屋さんを開き、職員より注文を受け付けてプレゼントをした。OTでは定型文で声掛けをする練習した。職員へ「何色の糸がいいですか?」と好みの糸の色を聞き、注文票に糸の色と氏名を記載してもらい、専用の受付ポストに投函してもらうよう伝えることができるようになった。

〈第Ⅲ期:A氏から職員へ自由に声掛けができるようになった時期/5~8ヶ月間〉

糸が絡まるなど修正が必要になった場合には、「糸が絡まっちゃったよ~。」と自ら依頼ができるようになった。また、受身的だった生活場面での介助も積極的に職員へ依頼する様子がみられるようになった。

【考察】

今回、他者と関わりを持ちたいが関わり方が分からず応答に困っているA氏に対し、積極性向上を目的にOTを行った。その結果、職員と積極的に話すことができるようになった。その要因として、A氏が唯一自信を持てる創作活動をコミュニケーションツールとして生活に組み込めたこと、さらにミサンガ作りを通して段階を踏んだ関わり方の練習を行ったことがA氏の積極性につながったのではないかと考える。今後もより多くの人との関わりを持ち、A氏の生活の幅がさらに広がることを願っている。

【倫理的配慮,説明と同意】

この報告について本人と保護者へ十分に説明を行い、承諾を得ている。また、当園の倫理委員会の承諾を得ている。利益相反に関する事項はない。

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