九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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脳性まひをもつ子どもへの姿勢の改善に向けた介入
完成用部品を用いた電動車椅子シートの改良
*江渡 義晃*森山 夏歩*井上 美沙*鵜殿 いずみ*原 寛道
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p. 85

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抄録

【目的】

脳性まひをもち、移動に電動車椅子を使用している高校生男子に対し、電動車椅子のシートを改良することにより、姿勢、操作性、耐久性に改善が認められた。今回その経過に考察を加えて報告する。

【症例紹介】

脳性まひ(痙直型四肢まひ)をもつ高校生男子。GMFCSレベルIV、MACSレベルII、CFCSレベルI。ADLはFIM72。移動に電動車椅子(ペルモビールC300コルプス)使用。椅子にはタスキがけのシートベルトを装着。姿勢保持用の体幹パッド等は使用していなかった。乗車時間が2時間を超えると疲労が生じ、リクライニングを倒す、降車するなどの休憩を必要としていた。高校生になり、身長、体重の増加に伴い、端座位時に体幹の右方向への傾きが認められ始めた。そこで姿勢管理に関する再評価を行い、電動車椅子のシートの改良の必要性を検討した。

【方法】

電動車椅子の電動部分はそのまま使用し、シートのみ修理申請で交換するよう検討した。

【経過】

工房が作製する座位保持装置を試用したが、骨盤支持が不十分で、利用者の姿勢保持、疲労感などに問題が残った。そこで流動体を使用したクッションなどの完成用部品を使用した座位保持装置に試乗した。これにより利用者の姿勢、操作性、耐久性に向上が認められた。そこで事業者に相談し、電動部分に完成用部品を用いた座位保持装置を搭載できるよう改良を依頼し、修理申請を行った。市役所の担当者と完成用部品の申請理由について数回紙面でやり取りした後、修理許可を受けた。その後、シートの交換を実施した。

【結果】

利用者と保護者、事業者と適合に関する評価結果を確認し、導入に至った。使用約1か月後に姿勢筋緊張の緩和を認めたため、再度調整し適合チェックを行った。その結果、更なる姿勢の改善を得ることができた。利用者や保護者からは、疲労感が減少し、持続して乗車できるようになったとの感想が得られた。

【考察】

利用者はGMFCSレベルIVで姿勢保持能力、粗大運動能力に低さが認められるが、中学生の頃は端座位をとっても非対称性はあまりみられず、電動車椅子使用時にも姿勢に関する問題はみられにくかったことから、シートに体幹パッドなどのサポート部品を用いなかった。しかし成長に伴い身長、体重が増加し、体幹の傾きなどの問題が生じ始め、非対称性が認められるようになった。工房が作製した座位保持装置と比べ、完成用部品を用いたものの方が、坐骨結節での体重負荷がより機能的であった。このことは、体格が大きくなると、一般的に使用されているクッションでの骨盤支持が不十分になる可能性があることが推察される。流動体を使用したクッションを利用することで、坐骨結節でしっかり体重支持できるようになり、それにより効果的に体幹も支持でき、利用者の姿勢の改善、操作性の向上、疲労の軽減による耐久性の向上につながったと考える。

【まとめ】

完成用部品を用いた座位保持装置は非常に高価なため、補装具支給申請が難しいことが多い。申請に際し、一般的に使用されている座位保持装置と、完成用部品を用いたものとの差を評価し、現状の機能だけでなく、将来的な二次障がいの発症予防も踏まえ、その必要性を明確にした上で申請手続きをとる必要があると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

本発表にあたり、本人及びその保護者に対し、公表に関することやプライバシー保護などの説明を行い、口頭と文書での同意を得ている。

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