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【目的】
2ステップテストは、ロコモティブシンドロームの代表的な評価法として広く利用されている。この評価は、Timed up and Go test(以下TUG)など運動能力に関する評価との関連を示す報告も多い。しかし、糖尿病患者において2ステップテストによる運動能力を評価して、他の評価法との関連を検討した報告は少ない。そこで、今回2型糖尿病患者に対し、2ステップテストとTUGおよび握力との関連について比較検討したので、ここに報告する。
【対象】
2014年3月から2016年2月までの間に、糖尿病教育入院パスで運動療法の指導を受けた2型糖尿病患者152名(男性86名、女性66名、平均年齢59.9±11.7歳)である。
【方法】
対象を、2ステップテストで実施した最大2歩幅を身長比で示し、2ステップ値を算出した。2ステップ値の算出結果によって、ロコモ度テスト判定基準(移動機能の低下の度合い)で、移動機能の低下が始まっているとされるロコモ度1(1.1≦2ステップ値<1.3)に該当する群を2ステップ値<1.3群(37名)、移動機能の低下が進行しているとされるロコモ度2(2ステップ値<1.1)に該当する群を2ステップ値<1.1群(16名)、2ステップ値≧1.3を2ステップ値正常群(99名)とし、3群に分けた。検討項目は、患者背景として年齢、性別、糖尿病罹病期間、BMI(Body Mass Index)、HbA1c、糖尿病性神経障害が有る割合、両側内果の振動覚、振動覚低下の割合、腰痛・下肢関節痛の有る割合、運動習慣の割合について調査した。また、運動能力の評価としてTUGおよび握力を実施した。TUGについては2回測定し平均値をTUG値とした。握力については左右1回ずつ測定し平均値を握力値とした。分析は、各項目について多重比較もしくはχ2検定を行い比較検討した。また、2ステップ値とTUG値および握力値との関連性については、Spearmanの順位相関係数を用いた。解析にはStatMate Version3.18を使用し、統計危険率5%を有意水準とした。
【結果】
3群における検討において、年齢では2ステップ値<1.1群と2ステップ正常群および2ステップ値<1.3群と2ステップ正常群の間で有意差を認めた(P<0.05)。糖尿病罹病期間では2ステップ値<1.1群と2ステップ正常群の間で有意差を認めた(P<0.05)。糖尿病性神経障害が有る割合では、2ステップ値<1.1群と2ステップ値<1.3群および2ステップ値<1.1群と2ステップ正常群の間で有意差を認めた(P<0.05)。また、TUG値では3群間に有意差を認め(P<0.05)、握力値においても3群間に有意差を認めた(P<0.001)。2ステップ値とTUG値の間には相関関係が認められ(r=-0.65、P<0.001)、2ステップ値と握力値の間には相関関係が認められた(r=0.50、P<0.001)。
【考察】
2ステップ値が低値であると、年齢が高くなる傾向や糖尿病罹病期間が長い傾向があり、糖尿病性神経障害を有する割合が増える傾向にあった。また2ステップ値が低値であると、運動能力においてTUGの測定時間が延びる傾向にあり、握力は低下する傾向が見られた。その背景として糖尿病罹病期間、糖尿病性神経障害が筋力、バランス能力、歩行能力に影響していることが考えられる。2ステップ値がTUGや握力と相関が見られたことについて、従来の運動能力評価と関連があると考えられた。
【まとめ】
2型糖尿病患者において、2ステップ値が低値である患者は運動能力が低下しており、ロコモティブシンドロームの代表的な評価法である2ステップテストは糖尿病患者においても有用な評価法であると思われる。
【倫理的配慮,説明と同意】
データの取扱に関しては、個人が特定されないよう倫理的配慮を行った。