2016 年 54 巻 3-4 号 p. 73-84
土佐湾西部海域の四万十海底谷周辺における栄養塩水準,湧昇発生の有無,基礎生産の状況を明らかにすることを目的とし,2010 年の四季(1,5,8,11 月)に栄養塩とクロロフィルa の鉛直分布を調べた。栄養塩濃度は各季節とも無光層となる100m 以深で濃度が上昇し,海底谷内の底層(300m 層)で最高濃度を示した。その年平均値と土佐湾西部海域に最大の淡水量を供給する四万十川下流部の既往報告値とを比べると,硝酸+亜硝酸塩とリン酸塩は海底谷が高く,豊富な栄養塩が存在することが明らかとなった。8 月の観測では海底谷内の栄養塩の高濃度層が上層側に拡大し,湧昇によって有光層まで輸送されている状況が認められた。その際のクロロフィルa 量は海底谷縁辺の亜表層で年最大値となる極大層が出現し,基礎生産が活発であった状況が確認された。各観測時の黒潮流路は湧昇が生じていた8 月のみ接岸していたのに対して,他季はいずれも離岸していた。以上のことは,黒潮の流路変動が当水域の湧昇発生の有無に関与し,接岸した際に海底谷内に豊富に存在する栄養塩が有光層まで供給され,基礎生産の向上に貢献することを示している。