La mer
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最新号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
  • 小松 輝久, ユベール=ジャン セッカルディ
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 87-105
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    本稿では,1958 年5 月に潜水艇FNRS III がなぜ日本に来航し,日仏の科学者が共に日本海溝を調査したのか,その概要を紹介する。1953 年にトゥーロンで進水したFNRS III は,当時世界で最も先進的な潜水艇であった。日本で深海調査を行っていた東京水産大学の佐々木忠義教授は,1956 年1 月から7ヶ月間,パリ海洋研究所に滞在した。そこで,バチスカーフ・カリプソ運航委員会委員長であるパリ国立自然史博物館・海洋研究所のルイ・ ファージュ教授と出会うことになる。佐々木教授の説得の結果,ファージュ教授はこの潜水艇を日本へ送ることを約束した。佐々木教授は日本の他の団体と共に,FNRS III を日本で受け入れる準備を行った。1958 年5 月に日本に到着した潜水艇は,日本海溝とその周辺に潜降し,貴重な成果を上げた。これを契機として,1960 年4 月,海洋学および水産学の分野における日仏協力の発展と深化を目的に,日仏海洋学会(SFJO)が日本に設立された。以来,SFJO は,海洋学および水産学の分野における日仏間の協力関係を促進し,交流を深めている。
  • 小池 康之, 小松 輝久
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 107-127
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    1960 年に日仏海洋学会(SFJO)が設立され,フランスとの海洋学に関する協力が始まった。1960 年代後半, フランスで養殖されていたカキが病気で大量に死亡し,カキ養殖の存続が危ぶまれる事態になった。そこでフラ ンスの研究者は,SFJO 会員である東北大学の今井丈夫教授に,病気に強い三陸カキをフランスに輸出できない か打診した。今井教授を中心とする研究チームは,検疫や病理検査を行い,三陸産のシングルシードのカキ1 万 トンをフランスに輸出することに成功した。この輸出により,フランスのカキ養殖業は危機を脱した。その後,日仏協力は水産学にも及び,1984 年に仏日海洋学会が設立された。2011 年3 月11 日,三陸沖で大津波が発生し, 養殖施設が壊滅的な被害を受けた。その直後,仏日海洋学会,フランスの牡蠣養殖業者,その他のフランスの団 体から,三陸のカキ養殖業者によるカキ稚貝提供のお礼として,彼らを支援したいと日仏海洋学会に連絡があっ た。これらの団体と日仏海洋学会は,三陸の県水産試験場や県漁協に顕微鏡やプランクトンネットなど,カキの 種苗採集に不可欠な機材を寄贈した。本稿では,このような水産科学に関する日仏の交流について概説する。
  • 戸谷 玄
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 129-136
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    本稿では,1974 年に締結された日仏科学技術協力協定に基づき設置された「日仏海洋開発専門部会」の創設と その後の活動について概説する。1974 年7 月,日仏科学技術協力合同委員会において,フランス側がオキアミの 採捕と利用,魚病学,マンガン団塊に関心を示した。1975 年4 月,日仏海洋開発専門部会の第1 回会合が開かれ, 日本側は潜水技術,海岸開発・海洋構造物,海洋観測機器に関心を示した。同年10 月の第2 回会合では,クロマ グロの養殖や海洋エネルギーについて日仏両国で議論が行われた。近年は,継続プロジェクト,新規プロジェク ト,終了プロジェクトの報告が行われるとともに,海洋研究,海洋技術・研究基盤,海洋資源,海洋バイオテク ノロジー,深海生態系,沿岸生態系,社会生態系を主要テーマとして専門部会は拡大している。海洋開発におけ る日仏の協力推進において,日仏海洋開発専門部会は重要な役割を担っている。
  • François GALGANI
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 137-153
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    人工高分子(プラスチック)の世界生産量は年間4 億トンを超え,海洋はプラスチック汚染の影響を最も受け る地域の一つとなっている。この海洋におけるプラスチックの分布は,人間の活動によって影響を受けている。 プラスチック汚染は,世界中の海岸,地表,そして90%以上が海底に見られる。プラスチックは海中でマイクロプラスチックやナノプラスチックに劣化し,工業用ペレットや一次マイクロプラスチックとともに,サイズ,形状,色,化学組成,密度が異なる異質な粒子群を形成する。海洋ごみとマイクロプラスチックが引き起こす影響の範囲については,ほとんど知られていない。最も重要なものとしては,生物の絞殺,生物による摂取,汚染物質の放出,種の長距離輸送などがある。循環型経済,リサイクル,水質浄化,選択的洗浄,教育などに基づく削減対策に加え,世界的な取り組み(国連環境総会,G7,G20)により,各国がより良い環境状態を実現するための管理措置を講じる枠組みを確立している。しかし,環境的,社会的,経済的,そして人間の健康にとって,リスクは依然として高い。
  • Barreau Cristina, Moreno Clément
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 155-163
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    海洋ゴミは,世界中の海や海岸線に影響を及ぼす地球規模の環境問題である。毎年800 万トン以上のプラス チックが海に流入し,世界の海の表層に少なくとも24 兆4 千億個のプラスチック粒子が存在すると推定されて いる。これらのプラスチックは,海面や堆積物,海氷,海底表面に見られる。1990 年以来,サーフライダー・ファ ウンデーション・ヨーロッパは,海洋ごみとの闘いをその活動の最前線に据えている。サーフライダーは,海洋 汚染への理解を深め,海洋環境に流入するゴミの量を減らし,海洋環境と人間への影響を低減するために活動し ている。NGO であるサーフライダーの活動は,この課題の根本的な原因となる問題に取り組むために,人々の 意識を高め,科学的研究を刺激し,政治的行動を開始することから始まる。地域社会と市民が活動プログラムの 核心であり,市民参加はその中心である。市民は,海洋ゴミの特徴,分布,輸送経路,野生生物と人間への潜在 的な影響に関するデータを収集し,残されている疑問に答えるだけでなく,政策の立案にも参加する。サーフライダーは,警告者,専門家,変革の担い手として,市民,科学者,意思決定者の間の対話を促進する。
  • 荒川 久幸, 中野 知香, 内田 圭一
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 165-173
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    日本沿岸の海水,海底,海岸におけるプラスチックごみ,マイクロプラスチック(350μm 以上,5mm 未満), 小型マイクロプラスチック(350μm 未満)の濃度と分布について記述した文献をレビューした。食品包装用プラ スチックやポリエチレン製レジ袋は日本の海岸に広く分布している。東シナ海の海域では,発泡プラスチックや ペットボトルの濃度が高い。海面のマイクロプラスチックは日本沿岸に広く分布し,日本沿岸海域のマイクロプ ラスチックの濃度は世界の他の地域と比較して非常に高い。東京湾において,350μm メッシュの内網と50μm メッシュの外網からなるダブルニューストンネットを用いて,小型マイクロプラスチック(> 50μm,< 350μm) およびマイクロプラスチック(> 350μm,< 5mm)の定量調査を行った。小型マイクロプラスチックの濃度は, マイクロプラスチックの約10 倍であった。マイクロプラスチックの定量に用いられている従来の技術は,プラ スチック濃度を過小評価する可能性がある。
  • 多田 邦尚, 中國 正寿, 山口 一岩, 一見 和彦
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 175-187
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    瀬戸内海の栄養塩濃度減少と水産業への影響について議論した。瀬戸内海は1960 年代にはじまった高度経済成長期に,著しく富栄養化が進行した。当時は,赤潮が多発し,魚類養殖にも大きな被害が及んだ。近年,水質が劇的に改善した。陸からの全窒素・全リン(TN,TP)負荷量はそれぞれ40%,60% 削減され,海水中の栄養塩濃度は明らかに低下した一方で,TN,TP 濃度には顕著な低下がみられない。栄養塩濃度減少は単純に陸上からの負荷削減だけがその要因ではなく,海底堆積物からの栄養塩溶出も重要であると考えられた。しかしながら,水質の改善にも関わらず,漁獲量は徐々に減少してきた。植物プランクトンの基礎生産量はこの栄養塩濃度減少に応答しておらず,また,動物プランクトン量の変動については,それを解析できるデータがない。漁獲量減少の原因については不明である。栄養塩濃度減少は,その原因のひとつであると考えられるが,埋め立て,藻場・干潟の減少,地球の温暖化,漁獲圧もすべて漁獲量減少の原因として考えるべきである。
  • Charles-François BOUDOURESQUE, Aurélie BLANFUNE, Thomas CHANGEUX, Géra ...
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 189-231
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    地中海は半閉鎖性の温帯海域で,局地的に温暖な海である。地中海は,種,機能,生態系の多様性のホットスポットであり,固有種が多く,ユニークな生態系が多数存在することが特徴である。地中海には12,000 から17,000 の海洋生物種が報告されている。完全に絶滅した種は1 つだけで,地中海において,ある場所で絶滅したが他の場所にはまだ存在する種は10 以下である。一方,多くの種が機能的または地域的に絶滅している。一部の環境保護主義者の甘い考えとは裏腹に,1,000 種もの外来種が徐々に流入してきたことで,地中海のイプシロン種多様性は実際かなり高まっている。地中海を象徴するいくつかの生態系(砂丘-ビーチ-バンケット生態系,Lithophyllum byssoides 帯状藻場,海草Posidonia oceanica 藻場,岩礁性ヒバマタ目藻場,サンゴ礁など)は現在減少傾向にある。つまり,生態系の機能(鍵種の相対的豊度,炭素と栄養塩類の流れ,食物網,生態系間の相互作用)は,大きく変化している。このような生物多様性への影響の原因は様々であるが,沿岸開発,乱獲,外来種の侵入の3 つが主な原因となっている。地球温暖化もその一翼を担い始めており,21 世紀中に顕著に増加すると考えられるが,現在のところ,他の人為的な原因には遠く及ばない。地球温暖化の進行する影響や不可逆的影響に対する懸念は全く正当なものである。しかし,他の脅威の過小評価は,政治的,あるいは人間の認識や科学研究の資金に関連する問題に由来しており,ここではそれについて考察する。
  • Jean-Claude DAUVIN, 大越 和加, 大越 健嗣, 阿部 博和
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 233-244
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    英仏海峡のpolydorids 多毛類はこれまでにも多くの多毛類目録で報告されており,日本の東北地方太平洋岸 でもpolydorids 多毛類を記述する報告がいくつかある。両地域の種の豊富さ(species richness)を比較し,考察 した。さらに,2018 年3 月,日仏共同研究により,フランス・ノルマンディー地方西海岸沿いで野生と養殖のマ ガキCrassostrea gigas (Thunberg, 1793)の殻からpolydorids 多毛類を採取することに成功した。また,石灰藻 や他の石灰基質からもいくつかの種が得られた。Boccardia, Boccardiella, Dipolydora, Polydora の4 属に属する 8 種が記録された。ノルマンディーでは,Polydora hoplura Claparède, 1868 とDipolydora giardi (Mesnil, 1893) の2 種が知られており,さらにDipolydora 属の1 種が種レベルで同定されていないことが判明している。 Boccardia proboscidea Hartman, 1940, Boccardiella hamata (Webster, 1879) および Polydora websteri Hartman in Loosanoff & Engle, 1943 はノルマンディーにおける,Boccardia pseudonatrix Day, 1961 およびPolydora onagawaensis Teramoto, Sato-Okoshi, Abe, Nishitani & Endo, 2013 はヨーロッパ海域における新記録種である。多毛類の専門家と協力して英仏海峡のような有名な海を調査すれば,新種を発見することができ,実際に存在す る種のリストを増やすことができることを示している。英仏海峡のカキにどのような多毛類が侵蝕しているの かを特定するために,このパートナーシップをさらに継続することが必要であることを、本研究は明らかにした。
  • 奥村 裕, 増田 義男, 鈴木 矩晃, 色川 七瀬, 片山 亜優
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 259-274
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    女川湾で2012年1月~2014年2月にかけて,植物プランクトンの群集組成を調べた。Chl. a 量は冬から春にかけて高い傾向にあり,珪藻が保持するFuco 量も似た傾向を示したことから,春季ブルームは主に珪藻によるものと考えられた。6 月にはChl. b 量が高い傾向にあり,ピコプラシノ藻が増加していた。出現割合は平均2%にも満たないが,ラン藻は,夏に出現する傾向があった。ピコプラシノ藻とラン藻は貝類の捕食サイズより小さいため,餌料効率が低く,貝類の餌料としては適さない。渦鞭毛藻が保持する色素のPerid 量と,下痢貝毒原因プランクトンのディノフィシス属は経時的に不規則な変化をしていた。また,クリプト藻の中ではディノフィシス属の間接的に餌料となる種が優占していた。そのため,女川湾はディノフィシス属の増殖にとって適した環境になっていると考えられた。ハプト藻の中では,Phaeocystis sp.が優占していた。毒性を持つ種も存在するため,引き続き観察が必要と考えられた。HPLC による色素分析と NGS による遺伝子解析を組み合わせることで,貝類の餌料環境を把握するのに必要な植物プランクトンの季節変動を網羅的に把握できた。
  • 柴田 玲奈, 石橋 賢一, 植木 誠, 阿部 倫久, 矢田 崇
    2024 年 61 巻 3-4 号 p. 311-316
    発行日: 2024/03/27
    公開日: 2024/04/16
    ジャーナル フリー
    マコガレイ Pseudopleuronectes yokohamae の仔魚期から稚魚期にかけての甲状腺ホルモンの一種であるチロ キシン(T4)の変化を調べた。孵化後20 日齢(浮遊期)から約120 日齢(稚魚期)におけるT4 濃度は,稚魚期において大きく上昇することが認められ,稚魚の発育段階後期で極大値を持つことが示唆された。また本研究中 において,T4 濃度の年変化は大きいことが示された。
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