嚥下障害の機能評価/病態把握は,咽喉頭の解剖/機能を熟知し,ファイバースコピーに習熟した耳鼻咽喉科医にとって最もその専門性を発揮できる領域のひとつである.また,気管切開がある嚥下障害患者に最適な気道管理の提供,重度嚥下障害に対しても実効性のある外科的治療(嚥下機能改善手術/誤嚥防止手術)で対応できる診療科の中心的存在としてその期待は大きい.
一方,耳鼻咽喉科医にとって嚥下障害診療の課題もいくつかある.• 嚥下障害患者ひとりあたりに要する診療時間は概して長く(演者は初診患者では30-90分要している),多忙な外来診療のなかでしっかりとした評価/訓練/指導時間,および継続的なフォローアップ態勢を確保することは困難な場合が多い(時間的制約).• ニーズは増加の一途にある“往診”態勢確立は,同上の理由で困難な現状にある(時間的制約/マンパワー不足).• 他の身体障害/栄養障害/高次脳機能障害/全身合併症/認知症などが摂食嚥下障害の病態/病因に複合的に絡んでいる症例では,ST/NsのみならずPT/OT/MSW/地域社会資源など多職種協働する環境構築に主導的役割を果たすことは困難な場合が多い(リハビリテーション科医的役割).• リハビリテーション病院,慢性期医療の病院には“外科的対応”をタイムリーに提供できる常勤耳鼻咽喉科医が極めて少なく,潜在的ニーズに十分対応できていない(耳鼻咽喉科医師の偏在).• 特に他科領域疾患(脳卒中/神経変性疾患/ほか)由来の嚥下障害を的確に評価し支援できる耳鼻咽喉科医はそれほど多くない(?)ためか,他科医師や他職種からみて“耳鼻咽喉科医に対応を依頼しても期待に応えてもらえない”という意見をときに耳にする.
口演では,摂食嚥下障害の重症度評価,急性期〜慢性期の時間軸,自施設が“できる能力”と“実施している状況”とのギャップを把握することの大切さ,地域社会の特性/地域差を踏まえて柔軟に治療方針を決定していく方策を述べる.