蝶と蛾
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Notes on species of Spirama GUENEE of Japan, with remarks for the classification of the genus : Lepidoptera, Noctuidae, Catocalinae
SHIGERO SUGI
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1967 年 18 巻 1-2 号 p. 4-9

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抄録

日本産のトモエガのなかまSpirama GENEE,1852は,最近まで4種に分類されていたが,山本義丸(1966,原色日本蛾類幼虫図鑑,1:130-132, pl.44)が累代飼育に成功し,かって私(1959,原色昆虫大図鑑,1:145)が推定したように,それらは2種に整理され,他の2種はそれぞれの春型を代表するものであることが判明した.学名及び和名を次のとおり整理する. Spirama retorta(CLERCK,1759)=Spirama martha BUTLER,1878.オスグロトモエ(アカイロトモエ) Spirama helicina(HUBNER,〔1827-1831〕)=Spirama japonica GUENEE,1852.バグルマトモエ(ヤマトトモエ)もっとも古い種名retortaの適用には,従来著者によって解釈の相違があるが,ここでは私(1959)の取扱いと同じく,WARREN(1913)に従った.その理由は本文中に記したが,本稿の論議とは別に,これらの命名上の問題は将来解決が必要である.以上の結果として次の事実が指摘される. 1.種retorta及びhelicinaは,基本型(日本における夏型)では,顕著な雌雄異型を示し,かつ両性とも両種は互に酷似し,雄では時に区別しがたいほどである.しかし春型では,両種は全く異なる方向に変化し,特にretortaでは基本型との相違がいちじるしく,かつ雌雄同型となる. 2.両種における春型の発現は,日本,中国などの温帯地域に限定されているらしく,このことは,アジアの熱帯ないし亜熱帯地域では両種とも年間を通じ基本型のみを生産することを意味するものと考えられる.インド北部の高地などでは,同様の,または別型の春型を生ずることが推測されるが,文献上ではそれらの存在を明確にし得ない.ただしインド産のtriloba GUENEE (modesta MOORE, rosacea HAMPSON)は明かに日本のアカイロトモエと同様な斑紋型を示し,それらはretortaもしくはその他の種の季節型を代表するものと想像される.またHAMPSON(1913)が, "retorta"として記載しているものは,雌はハグルマトモエであるが,雄はここで扱うハグルマトモエの基本型の雄と一致せず,むしろ日本産のハグルマトモエの春型の雄に近いものである. HAMPSONの検索表では,オスグロトモエ及びバグルマトモエの基本型の雄は分離できず, HAMPSONがそれらを一種として,ここで扱うオスグロトモエの雌と結合し,それを種"suffumosa"として扱っていることはほぼ確実である. 3.両種における季節型の存在と,その斑紋の変化様式ないし変化の極限が明かになったことは,この属の世界的な分類に一つの基礎を与えるものである.属Spiramaはインド全域からセイロン,ビルマ,インドシナ,中国,台湾,朝鮮を経て日本まで北上し,ジャワ,スマトラ,セレベス,フィリピン,ニューギニアなどの諸島とオーストラリア北部にわたる熱帯アジアの全域に分布し,約30個の種名が命名されている.HAMPSONはこれらを12種に統合したが,彼自身も述べているように,これらは将来多くの地理的,季節的変異をともなう2ないし少数の種に還元されるべき可能性をもつものである.本文中には触れてないが,日本国内の属Spiramaの分布について一言すれば,本属の2種は,本州,四国,九州の低地には,ひろく分布しているものと思われるが,もう一度再点検が必要である.特に東北地方の調査は,両種の分布密度,北限等に差があるかどうかを知る上で重要である.北海道では特に道南地域に本属が土着しているかどうか,またどちらの種が採集されるかについての調査が必要であるが,これまでなんの資料も発表されていない.琉球列島では,西表島産のhelicinaの標本(春型および夏型)が今私の手許にあるほか,全く記録を欠く,沖縄本島には本属の蛾は産しないようであるが,やはり調査が必要であろう,

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© 1967 日本鱗翅学会
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