蝶と蛾
Online ISSN : 1880-8077
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Hydraecia ultima HOLST, 1965 in Japan (Lepidoptera, Noctuidae, Amphipyrinae)
SHIGERO SUGI
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1972 年 23 巻 1 号 p. 1-3

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抄録

標題に掲げたHydraecia ultima HOLST, 1965という蛾は,ヨーロッパで古くから知られるH. micacea (ESPER)からごく最近に分離された種で,現在までにデンマーク,スウェーデン,フィンランド南部,ドイツ,ポーランドに産することが知られる.東京の小林幸正氏は,1968年夏北海道帯広で採集されたHydraeciaの1標本が,既知のフキヨトウと異なっていることに注意され,標本の検討を私に委ねられた.その結果,それは疑いなく上掲の種に同定されることを確認した.続いて北海道の小木広行氏もこの蛾を十勝支庁管内の新得町屈足,鹿追町および忠類村で採集していることが判明し,同氏の御好意でその1頭を見ることができた. Hydraecia micacea (ESPER)という名は,古く日本から記録されたことがあり,スゲヨトウ(松村, 1905,日本昆虫総目録:67)あるいはスヂヨトウ(松村,1931,日本昆虫大図鑑:803;この名はおそらく誤記によるもの)として扱われていた.しかし私はmicaceaに当る日本産の標本を一つも見ていない.一方micaceaの別の近縁種であるHydraecia nordstroemi HORKE, 1952は,北部ヨーロッパからウラル,中央アジア,バイカル湖を経てウスリーまで分布しているというので(URBAHN, 1962), 北部ヨーロッパと同様に,もしも北海道にこれらの2ないし3種を産するとすれば,それらの識別は慎重に交尾器によらねばならない.しかし,日本のHydraeciaが, H. amurensis STAUDINGERフキヨトウとH. ultima HOLSTの2種のみであるならば,その判別は容易である.この属では大きさの個体変異がはげしく,更にamurensisにはかなり明るい赤褐色の個体から暗い紫褐色をおびる個体までさまざまな変化があるが, ultimaでは前翅の翅頂がamurensisのように突出せず,外縁は滑かにまるみをもち,一般に小型で(ヨーロッパの標本では28〜41mm,北海道産の♂では30〜36mm),前翅は明るい赤褐色,後翅は明るい灰黄色を呈することで区別される. Hydraecia ultima HOLSTに対してはキタヨトウ(新称)という和名を提唱したい.しかし松村(1931)の図はたしかにmicacea群の一種を示しているようであり,もしそれが真のultimaであることが確認きれれば,松村の与えた和名スゲヨトウを復活することができよう.本文をまとめるに当り,貴重な発見をもたらされた小林幸正,小木広行の両氏の慧眼に敬意を表したい.また文献の入手に御尽力頂いた上田恭一郎氏にも深く感謝の意を表する次第である.

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© 1972 日本鱗翅学会
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