蝶と蛾
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北米のヤママユガ科Hemileuca maia群と1新種の記載
Richard S. PEIGLERStephen E. STONE
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1989 年 40 巻 2 号 p. 149-165

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抄録

亜科Hemileucinaeは熱帯アメリカで多様に分化した小〜中型のヤママユガで,旧大陸には分布していない.本亜科はHemileucaのほか,Automerisなど,21属,400種ほどが数えられ,幼虫の刺毛に剌されると大変痛いことでも知られているが,北米に分布するのは4属,30種に満たない.ここに扱われているmaia群の成虫は昼飛性で,卵越冬,春に孵化した幼虫は初夏には蛸化し,秋に羽化する.この群は従来3種とされてきたが,成虫の形態のほか,幼生期の知見を加えて再検討し,少なくとも3種が追加されなければならないことが判明した.そのうちの1種は新種として記載されている.Hemileuca maiaは東部に広く分布し,砂質土壌に成育するマツ林に混交する灌木性Quercusにつくことが多いが,この植生は季節的な自然発火による山火事によって維持されている.しかし,分布域の北西部では,ヤナギ類につくものがあることが知られている.一方,H.nevadensisは西部に分布し,川辺のヤナギやポプラ類につき,砂漠や草原など,乾燥気候に適応している.また,H.lucinaは東部のミシガンからメインの湿潤な地方でホザキシモツケを食べ,nevadensisと交雑するが,その雌の妊性はない.Quercusを食べるH.peigleriはmaiaの亜種として記載されたが,テキサス中部に孤立して分布し,成虫,幼虫ともに明瞭に区別できるので独立種と判断される.また,H.artemisは,従来比較的変異の多いnevadensisと同種とされてきたが,明らかな別種で,ニューメキシコ中部のリオ・グランデ川沿いに生息する.ヤナギ類の記録もあるが,ポプラの一種P.fremontii var.wislizeniiをおもに食べる.なお,種名のartemisはギリシャ神話の女神の名に由来し,同時に,ヨモギ類の属名Artemisiaに掛けているのだが,これは誤同定によるもので,ヨモギを食べるのはH.magnifica(ROTGER)であった.新種として記載したH.slosseriは,食樹である灌木性のカシ類Quercus havardiiに完全に依存しており,テキサス北西部からニューメキシコ東部の狭い範囲に分布している.成虫の翅型や斑紋,幼虫の色彩などで,近縁種と明瞭に区別できるが,交尾器ではむずかしい.幼虫は初夏に蛹化するが,蛹はその年の秋に羽化するとは限らず,翌年またはその翌年にも羽化することがある(Table1).なお,この蛹期間の延長はHemileucaでは普通にみられる現象である.羽化は初霜の降りる頃から始まり約2か月におよぶ.その間,雌はだいたい均一に羽化するが,雄の羽化は発生初期に集中している(Fig.3).マイマイガの農薬や天敵による防除,農地の開発,生息環境の人為的な改変,住宅地域では衛生害虫として防除の対象となるほど,Hemileucaを保護するために克服しなければならない障害はきわめて多いが,手遅れにならないうちに何らかの対策が講じられることを願って止まない.

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© 1989 日本鱗翅学会
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