蝶と蛾
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クジュウキヨトウ(新称)Mythimna lineatipes(Moore)の日本とタイからの発見とアジア産の近縁種の分類学的整理
吉松 慎一
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2002 年 53 巻 1 号 p. 55-62

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抄録

筆者の勤務する農業環境技術研究所に最近寄贈された杉繁郎コレクションの中に日本からは記録のないキヨトウの1♀(Fig.4)があることに気が付いた.明らかにMythimna(Mythimna)lineatipes(Moore)グループに属すると思われたが,アジア産の本グループはこれまで分類学的に十分検討されていなかった.そこで先ず,関連のタイプ標本を全て再調査した.また手元の本グループの標本約50個体を全て解剖し,雌雄交尾器を詳細に比較・検討したところ,アジアにはMythimna(Mythimna)lineatipes(Moore),M.(M.)nainica(Moore),M.(M.)percisa(Moore),M.(M.)lucida Yoshimatsu&Hreblayの4種が確認できた.これら4種成虫は外見的に酷似しており,識別が難しいので,雌雄交尾器を図示するとともに雌雄交尾器に基づく検索表を作成した.杉コレクションの1♀(大分医科大学の宮田彬氏が大分県の九重山群の一角にある黒岳で1980年6月に採集)(Fig.4)は,このうちM.(M.)lineatipes(Moore)に一致したので,今回クジュウキヨトウと新たな和名を付けた.本種の雌交尾器はductus bursaeが長く,antrumの部分を除けば膜質で,cervix bursaeは管状で膜質であり,corpus bursaeの左後方に付着していることで他種とは区別できる(Fig.15)一方,4種の雄交尾器での識別はvesicaのcornutiの形態を観察することで容易である(Figs 11D,12-14).また,本種を今回タイからも初めて記録した.4種の中ではクジュウキヨトウはインドから韓国,日本にまでかけて最も広く分布している.日本からのさらなる採集記録が期待される.

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© 2002 日本鱗翅学会
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