蝶と蛾
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タイ王国でヤブガラシ属植物の1種から得たトリバガ2種の幼生期および本2種間の形態的類似性(鱗翅目,トリバガ科)
吉安 裕
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2014 年 65 巻 1 号 p. 36-43

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抄録

タイにおいてヤブガラシ属植物の1種Cayratia trifolia (L.) Dominから採集し,飼育した2種のトリバガ科,タイワンシラホシトリバDeuterocopus socotranus RebelおよびコブドウトリバNippoptilia minor Horiの幼虫と蛹の再記載をするとともに,この2種間の形態的な類似性について報告した.1)タイワンシラホシトリバ アフリカから東洋区(日本の琉球列島を含む),ニューギニア,オーストラリア,西太平洋州に広く分布し,タイからも記録されていた.本種はCayratia trifoliaを含むブドウ科のVitis lanata他,キツネノマゴ科のヒルギダマシAvicennia marinaが記録され,幼虫と蛹は,スリランカ産個体群(Fletcher,1910)と日本産個体群(Yano,1979)についてすでに記録・記載されているが,次の点で異なっていた.(1)幼虫の頭部は黒褐色で,前2産地個体群(淡褐色〜褐色)よりも黒く,前胸部は紫色を帯びた黒褐色となる.幼虫の体色は淡黄色の個体もみられるが,多くは淡緑色である.(2)幼虫の第1〜第8腹節(A1-A8)の刺毛SD2は,痕跡的で気門により近い.(3)蛹の胸・腹部の斑紋が濃く,A1-A8の各節の背中線にある小黒点も,より顕著に認められる.(4)蛹の背域の縦の隆起線がA3まで認められる(日本産:A2まで).これらの幼生期の差異に加えて,飼育で得られた♂成虫交尾器の挿入器の基部は,日本産およびスリランカ産のそれに比べて,やや幅広く,より複雑で湾曲が強かった.本種は広域に分布し,今回所検した標本は同じ季節の1地点の個体群であるので,地理的あるいは季節的変異の可能性があり,今後他地域の個体群との比較が必要である.2)コブドウトリバ タイ以外に,日本(本州〜琉球列島),朝鮮半島,中国,ベトナム,パラオ及びオーストラリアに分布し,寄主としては,これまでヤブガラシCayratia japonica (Thunb.) Gagnep.のみが記録され,C. trifoliaは新寄主となる.幼虫体色は前種とほぼ同じか,淡緑黄色を呈するが,前種と異なり,頭部は淡褐色,前胸は背板を含めて他の胴部と同じ淡緑褐色〜淡黄色.腹部の刺毛はA9とA10以外ではかなり短く,前種の短刺毛と同様に刺毛の先端は鈍く,ときに広がる.刺毛式は,以下の点で,日本の石垣島産個体と多少異なる.(1)頭部の刺毛L1は短く,刺毛A3の約1/2の長さである(日本産:両刺毛はほぼ同長).(2)頭部の刺毛P2は刺毛AF1よりもやや後方に位置する(日本産:AF1よりもやや前方).(3)A1-A8の剌毛SV1がより短く,SD2もきわめて短い.3)Deterocopus属とNippoptilia属の形態的類似性 現在,Deuterocopus属はシラホシトリバガ亜科Deuterocopinaeに,またNippoptilia属はカマトリバガ亜科Pteropholinaeに所属しているが,この2属の幼虫は同じ摂食習性をもつほか,1)頭部の剌毛MD1が剌毛P1と点刻Pbの近くに位置し,ほぼ等距離に配置されていること;2)胸・腹部ではA10を除き1次剌毛のみを有し,2属間で剌毛式はほぼ同じである;3)A2のSV剌毛群は2本(通常3本)であること等の形態的類似性がみられた.また,蛹では,1)胸部からA2またはA3にかけ1対の背域の縦の隆起線をもつこと;2)各腹節には比較的規則的な背腹方向の隆起線が認められることで類似する.さらに,♂交尾器では,両属の種で1)ウンクスが幅広く,二叉し,2)♀交尾器のアントルムが長く,発達する.これらの形態の類似が平行的に生じたか,系統的類縁性を反映したものかは,今後の検討を要する.

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© 2014 日本鱗翅学会
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