蝶と蛾
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日本で害虫化したアフリカシロナヨトウ(ヤガ科)のDNAバーコーディング追加情報
吉松 慎一綿引 大祐西岡 稔彦中村 浩昭山口 卓宏嶽崎 研島谷 真幸上里 卓己
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2014 年 65 巻 3 号 p. 89-93

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抄録

アフリカシロナヨトウSpodoptera exempta(Walker)はアフリカでは著名な害虫で,他にもアジアの熱帯地域,オーストラリア,ハワイを含む太平洋の島嶼に分布し,成虫は数百キロメートルという長距離の移動が可能である.雌成虫は前翅がほぼ一様に黒色を呈するのに対し,雄成虫では前翅の地色は黒色であるが,中央部から亜外縁部にかけて淡色部を備えることで区別できる.日本からは,2010年より前には成虫が僅かに得られていたが,南西諸島で2010年夏〜秋に初めて害虫化した(吉松ら,2011).その後,福田(2012)は沖縄で被害が確認された2010年8月とほぼ同時期に鹿児島県本土の薩摩郡紫尾山(しびさん,標高1,067m)で2個体を採集していたことを報告した.2010年には,沖縄県と鹿児島県ではアフリカシロナヨトウの合成性フェロモントラップを用いて調査を実施したが,アフリカシロナヨトウ以外にも同属の複数種が得られていた.そこで,綿引ら(2013)は雄交尾器形態およびDNAバーコーディングにより,本属の種の識別法を開発し,本種のmtDNA(COI)に2つのハプロタイプを確認した.その後,沖縄県で2012年にフェロモントラップで成虫を採集し,鹿児島県の離島で2013年に野外で本種幼虫・蛹を採集した.また,これら沖縄産と鹿児島産の成虫標本の解析の結果,綿引ら(2013)が報告した2種類のハプロタイプとは異なる1種類のハプロタイプを認め,2010年には1個体でしか確認されなかったハプロタイプを今回さらに1個体で認めた.綿引ら(2013)と今回の結果を併せた日本を含むアジア・オセアニアの3個のハプロタイプとGraham and Wilson(2013)で報告されたアフリカ産の10個のハプロタイプをハプロタイプネットワークに示したが,両者は2つのグループに分けることができ,少なくとも2塩基が異なった.GenBankに登録されていたパプアニューギニア産3個体とオーストラリア産2個体のハプロタイプは日本産の最も頻度の高いハプロタイプ(Asia-Oceania 1)に一致し,また,今回新たに日本から見いだしたハプロタイプはオーストラリア産1個体のハプロタイプ(Asia-Oceania 2)に一致したことから,これらのハプロタイプは東南アジアからニューギニア,オーストラリアにかけて広く分布している可能性があることが示唆された.東南アジア各地での本種のハプロタイプはほとんど解析されておらず,日本で発生した個体群がどこから飛来・侵入してきたのかを現時点で推測することはできない.今後の東南アジアを中心とした地域における本種のハプロタイプの解析を待ちたい.

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© 2014 日本鱗翅学会
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