蝶と蛾
Online ISSN : 1880-8077
Print ISSN : 0024-0974
クロテンシロチョウの異なる季節における2種の寄主植物での産卵と幼虫発育の比較
Basant Kumar AGARWALASamit Roy CHOUDHURYP. Ray CHOUDHURY
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 65 巻 3 号 p. 128-135

詳細
抄録

チョウの寄主植物の選好性と生活史の季節変異に関する情報は,環境保全を行う上で重要である.クロテンシロチョウLeptosia ninaは東洋区,旧北区東部,地中海地域に分布し,フウチョウボク科のフウチョウボク属Capparisとギョボク属Crateva,ならびにフウチョウソウ科のフウチョウソウ属Cleomeを寄主とする.しかし,生物多様性ホットスポットのインド・ミャンマー地域の西側に位置するインド北部では,フウチョウボク属とギョボク属は分布しておらず,クロテンシロチョウはフウチョウソウ科のCleome monophyllaとアブラナ科のイヌガラシRorippa indicaだけを産卵ならびに幼虫発育に,異なる比率で異なる季節に利用している.すなわち,本種のメスは,C. monophyllaを夏と雨季に高い比率で利用し,秋と冬にイヌガラシR. indicaを高い比率で利用していた.本論文では,イヌガラシR. indicaをクロテンシロチョウの分布域における新寄主として記録した.また,本種について2種の寄主植物の入れ換え実験を行った結果,発育時間に差は認められず,寄主植物として同等の質をもつことが示された.本研究により,クロテンシロチョウが調査地域において狭い範囲の寄主植物に適応していることが示された.これは,Thomson(1988)が提唱した「寄主淘汰のパッチダイナミック説patch dynamic hypothesis of host selection」(寄主利用の地理的変異は,潜在的寄主の相対的豊富さの地理的変異に引き続いておこる)と一致すると思われる.この点は,寄主植物とチョウの相互関係ならびにその保全において重要な意味をもつ.

著者関連情報
© 2014 日本鱗翅学会
前の記事 次の記事
feedback
Top