2023 年 74 巻 1 号 p. 1-12
イチモンジセセリParnara guttataに類似するが後翅の白斑列がオオチャバネセセリZinaida pellucida様にジグザグ状である1個体,オオチャバネセセリに酷似するが後翅の白斑列のジグザグ度が小さく,その点でイチモンジセセリに似た1個体およびクロコノマチョウMelanitis phedimaに酷似するが従来図示された同種にはない翅形と日本産同種の通常の夏型と比較してよりはっきりした眼状紋を有する1個体について,F1種間雑種の可能性の検討を含む種確定の目的で,ミトコンドリア遺伝子ND5および核遺伝子EF-1αの部分塩基配列解析を行った.この様な形質の個体は,これまで,飼育,DNA解析,その他の手法による種同定,雑種の可能性が研究されたことはなかった.その結果,問題の個体のEF-1αの塩基配列を示す波形データにおいて,上記セセリ両種間およびクロコノマチョウと近似種ウスイロコノマチョウMelanitis leda間で種類の異なる塩基のピーク(波形)は,すべて単一であった(マルチ波形が見られなかった)ため,問題の個体はいずれもF1種間雑種ではないと考えられた.そして,塩基配列から,順にイチモンジセセリ,オオチャバネセセリおよびクロコノマチョウであることが示された.今回のようなオオチャバネセセリ的な白斑列を持つ個体はこれまでもしばしば種名をめぐってチョウ同好者等の間で議論があったが,それは,2種を区別する主な拠り所にしている後翅白斑列の整列性が,種同定の指標としては安定性が高くないことから生じたものである.今後の種同定をより確実・簡易にする目的で,今回新たに,両種間で,この後翅白斑列整列性より安定した差異のある前翅白斑列の配置を,種同定の一指標として提示した.