抄録
本研究は、「人間関係→心理的健康」を想定し、“対人認知”に焦点を当て、日本人研究者による研究を整理することを目的とした。筆者はアテトーゼ型脳性麻痺を持っており、健常者の人間関係と心理的健康について、どのようなことが言われているのかをまとめてみたいというのが個人的な動機である。また、論文に書くことを介助者に伝えて打っ
ていただくという仕方で書き進めている。問題関心としては、日常の人間関係を生きる時、“対人認知”は避けて通ることができないこと、心地よい感情が我々の生存確率を上げること、厚生労働省(2013)の“心の健康”を見ても、“情緒的健康”・“知的健康”・“社会的健康”が挙げられており、それらは身体との相関があるとしていることを挙げた。
2022年4月26日15時26分にCinii articleで、人間関係と心理的健康を検索し、そのなかから26本を分析対象とした。26本の先行研究を、「ネットワーク・サイズ」・「ストレッサー」・「職場環境と心理的健康」・「ソーシャル・サポート」・「距離感と可変性」・「離島住民の心理的健康の関連要因」の各々6つに分類し考察した。「ネットワーク・サイズ」については、①親密な人間関係のなかでのコミュニケーションの頻度・②友人に対する認知の仕方・③他者に応じて柔軟な態度をとることが、心理的健康と関連することが考察された。「ストレッサー」について、「人間関係」での問題がストレッサーになることが、これまでの研究から明らかになった。「職場環境と心理的健康」については、職場での人間関係はストレッサーとなることもあるが、その一方で仕事意欲に繋がることがわかった。「ソーシャル・サポート」について、受領者の態度によって、周りからの資源がサポートとして機能するか否かが変わることが窺われた。「距離感と可変性」について、他者に認められている自分がいること、自分を装う必要がない人間関係に所属することが、心理的健康に影響すると考察された。「離島住民の心理的健康の関連要因」では文献が少なかったため、積極的な考察ができなかったが、健康寿命を延ばすためには、社会と関わる姿勢・それを側面から支えるソーシャル・サポートが必要条件であると思われた。今後の課題として3点が挙げられたが、①「人間関係」と「心理的健康」の独立変数と従属変数を入れ替えて考察すること・②先行研究について複数人で分類することにより、妥当性を高めること・③個人的な動機ではあるが、「人間関係→心理的健康」の既存の研究が脳性麻痺者にどの程度汎用可能か、方法論を考えたうえで検討することである。