抄録
脳性麻痺者の日常生活での感情に焦点を当てた研究がないという研究上での問題意識、また健常者を対象とした人間関係の作り方と心理的健康についての先行研究の知見は、脳性麻痺者のそれに当てはまらないだろうという、筆者の日常の人間関係の経験に基づく問題意識から、アテトーゼ型脳性麻痺を持つ筆者が7 年間綴った日記から、日々考えていることや感じていることを人間関係に焦点を当てて考察することを目的とした。主観を排除したうえで、単語間の関係性を抽出するためにテキストマイニングを用いて一年ごとに分析した。その結果、どの年も、「人間関係」の出現頻度が高いことが明らかとなった。 “2021年3 月1 日~2022 年3 月27 日における日記” では、それまでの年と違い、「ヘルパーさん-嫌い」や「良い-死に方」といった係り受け関係が抽出された。しかし、介助を常時必要とする筆者がいう「嫌い」と、健常者の人間関係での「嫌い」は質的に異なっている可能性がある。否応なく、他者と付き合わざるを得ない環境に置かれている筆者は、たとえば“人間関係の分散性” を高めたり、 “想像上の他者” という考え方を応用することにより、日常の人間関係を生きていると考察された。今後の課題としては、たとえばSNSやブログ等、脳性麻痺者が日常生活での感情を呟いていると考えられる媒体を使って、脳性麻痺者の日常の人間関係のなかでの心理について、人間関係と心理的健康の関連に主眼を置いて、健常者のそれとの共通性や差異性を意識しながら考察することが求められる。