マクロ・カウンセリング研究
Online ISSN : 2434-3226
Print ISSN : 1347-3638
特集:『afterコロナの時代の連携・協働・ネットワーク化について考える 』
在日フィリピン系青年に対する支援者ネットワークづくりの試み
-当事者を交えた多様な人材による心理教育プログラム-
津田 友理香太田 貴
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 15 巻 p. 2-24

詳細
抄録
日本では第4 番目の人種的マイノリティ集団であるフィリピン人移民だが、その文化、社会、歴史は特有のものがある。一つは、植民地時代の影響から、アメリカナイズされた文化があり、英語をフィリピン語と併せて主言語としていることなどが挙げられる。深層的文化には、母国への送金などにみられる家族的絆の深さ、生活に密着した信仰心などが挙げられる。一方、言語の障壁や世間体を気にする傾向があり、ヘルプシーキングを困難する要因の一つとなる。 そこで、在日フィリピン人の社会文化的特徴に十分に配慮しながら、コミュニティの場や人的資源と密に関わり、二つの文化を統合できるような心理教育プログラムを構成する試みとして、一支援団体を取り上げた。 プログラムの成果の一つが、ワークショップを通じて親世代のフィリピン人または日本人が第三者的な相談役の役割を果たすことがあった。一方、今後の課題としては、より近い年齢の青年たちと交流する場を設けることで、相談する敷居を下げ、近しい存在として気軽にコンタクトできる仕組みを作ることが、不適応や問題行動などの予防となると考え られる。先輩たちから生活や進路のことでアドバイスをもらい、日本社会に「統合」していくための手立てとなる、ピアサポートのような親密な関係性を築くことが期待された。 成果の一つには、当事者による、当事者のための、当事者とともに(ダルトン他, 2007)プログラムを企画、実施したことが挙げられる。同じ共通認識をもつ当事者に最も近い立場の支援者が全国ネットワークを作ることで、専門家と非専門家、専門家と当事者、さらには当事者同士をつなぐ架け橋となる役割を果たすことができた。 このように、文化的センシティビティをもった専門家がコミュニティに介入することで、移住者のメンタリティを考慮したプログラム開発が行えた。なお移住者にとって、メンタルヘルスサービスに対するヘルプシーキングは困難だとされるなかで、心理教育プログラムは有効であり、問題を焦点化するのではなく、発達促進的な側面に注目したことに意味 があると考える。
著者関連情報
© 2022 マクロ・カウンセリング研究会
前の記事 次の記事
feedback
Top