抄録
糞分析によるテンMartes melampus の食性調査を,大分県久住町において1997年から2001年まで行った.総糞数1,387個を分析した結果,5年間の平均出現頻度は動物質79.7%と植物質51.1%であった.動物質と植物質のそれぞれの内容には年や季節による変動がみられたが,動物質では昆虫類,哺乳類,甲殻類を中心に鳥類,爬虫類,クモ類,魚類が捕食され,植物質では36種が確認された.とくに,昆虫類は6月から10月に,哺乳類は2月,4月および12月に,甲殻類は8月と10月に,植物質は10月と12月に出現頻度が高かった.これらの結果から,テンは雑食性であり,季節や気候条件,捕食·採餌効率および餌量などの条件により,動物質と植物質および各種生物を柔軟に捕食·採餌している可能性が示唆された.また,餌場として人為的環境も利用するが,餌動植物の生息·生育環境から主に森林を利用し,調査地ではとくに河畔林,境界林および林縁部への依存度が高いとことが推測された.