抄録
食物の確保,保存,隠蔽などを目的とするリス科動物の貯食行動は,温帯域以北に生息する種の報告が多いものの,クリハラリスのような亜熱帯域以南に生息するリス科動物については少ない.そこで,本研究では,温帯域以北に生息するリス科動物と同様に,クリハラリスもランドマークを用いた貯食を行うかについて明らかにすることを目的とした.野外に生息するクリハラリス4個体に,5個ずつクルミを与え,自由に貯食を行わせた.その貯食場所のマイクロハビタット,貯食場所に出現する植物種および樹木の地際周,貯食場所の草本および樹木の本数について解析した.貯食場所には,草本および樹木のある環境を多く選択し,立体物のない環境には貯食されなかった.植物の種類としては,アオキが多く分布する環境を選択した.樹木が繁茂する場所よりも草本や樹木の本数が2本程度の疎な下層環境を利用していた.このことから,クリハラリスの貯食場所には温帯域以北に生息するリス科動物と同様に,ランドマークをもとに特徴的な貯食場所を選択することが明らかとなった.