抄録
コウモリ類の音声データベースを構築するために,北海道内に生息するモモジロコウモリMyotis macrodactylusを対象に,コウモリのエコロケーションコール(以下,音声)の構造における地域的変異の有無を明らかにした.2009年6月から10月,北海道内7箇所(浦臼町,幌加内町,新得町,上士幌町,津別町,白糠町,七飯町)に調査地点を設け,計290個体の音声を得た.この音声を用いて,各調査地点に生息する個体の音声構造の調査地域間における関係,および各地域の個体サイズとの関係を検討した.モモジロコウモリの音声構造には明瞭な地域差は存在せず,また,調査地域間の体サイズには,地域差の存在が確認されたが,体サイズによって本種の音声構造は変化しなかった.これは,各調査地点において計測した5つの音声パラメーター(SF, EF, D, MF, PF)は,いずれも大きい変動係数を示しており,本種の音声構造は,地域差よりも個体差の方が大きいことが原因であると考えられる.本研究からは,本種が調査地域間を移動している可能性も否定できないが,いずれにせよ,北海道内のモモジロコウモリおいては,北海道全域で統一した音声データベースを構築することが可能であると思われる.今後,全国スケールでの本種の音声変異の把握とともに,他種の音声との比較が求められる.