抄録
瀬戸内の島々,九州の大隅諸島,トカラ列島,甑島列島,五島列島をはじめ,伊豆諸島,隠岐諸島,三河湾の小島など25集団のニホンジネズミ(Crocidura dsinezumi)について,下顎骨の形態計測にもとづき多変量解析をおこなった.主成分分析では第1主成分は全体的な大きさ,第2主成分はかたち(下顎骨の長さに対する高さ)の変異を示した.主成分得点の集団平均と環境要因(島の面積,緯度)の関係を検討すると,第1主成分はいずれとも有意な相関は認められなかったが,第2主成分は緯度と正の相関がみられた.集団間の下顎骨の形の変異に気温などの環境要因が働いているかもしれない.瀬戸内,大隅諸島・トカラ列島,甑島列島,隠岐諸島,伊豆諸島では,島の成立の歴史が異なるにもかかわらず,ジネズミの集団間の形態距離(マハラノビスの汎距離)にはこれらの地域間で有意な差がみられなかった.これは島の集団が偶然に短期間のうちに形態変化したためかもしれない.形態距離にもとづき各集団の関係をみると,各地域でまとまりがみられたが,伊豆諸島の集団は九州本土の集団に近かった.伊豆諸島の集団はこれらの集団と遺伝的に近いかもしれない.そうであるなら,伊豆諸島のジネズミは九州からヒトにより意図せずに運ばれたのかもしれない.