哺乳類科学
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福島原発事故後の放射能影響を受ける野生哺乳類のモニタリングと管理問題に対する提言
山田 文雄竹ノ下 祐二仲谷 淳河村 正二大井 徹大槻 晃太今野 文治羽山 伸一堀野 眞一
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2013 年 53 巻 2 号 p. 373-386

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抄録

東日本大震災が起きて約2年半が経過し,福島原発事故で放出された放射性物質による野生動物への蓄積と影響についての調査研究が取り組まれつつあるが,全体的な実態や野生動物の管理について,人間活動の制限もあり不十分な点が多い.このため本稿では,野生哺乳類のモニタリングや管理問題について,特にニホンザルMacaca fuscata(以下サルとする)や大型狩猟動物を対象に最近の知見を報告し,今後のあり方について総合的な視点から検討を加え,いくつかの提言をまとめた.福島県の高線量地域(避難区域の南相馬市など)における放射能汚染によるサルの餌への影響,耕作状況の変化によるサルの行動変化,および捕獲サルからの極めて高い数値の放射性セシウムの体内蓄積量が報告された.さらに,中線量地域(避難区域外の福島市)で捕獲されたサルの放射性セシウムの体内蓄積量を事故直後から最近まで継続的にモニタリングしたところ,特に事故当年に極めて高い値を示し,白血球の減少など健康への影響も認められた.大型狩猟獣では,高中線量地域の福島県内や低線量地域の周辺の県においても,食品の規制値(100 Bq/kg,2012年の新基準値)を超える個体が存在した.さらに,高線量地帯の避難区域では人の立ち入りが禁止されているため,野生動物の管理が困難となり,野生動物の個体数増加や行動圏の変化が起きていることや,さらに低線量地域においても,狩猟の低下による野生動物の個体数増加による人間との軋轢の問題が起きており,今後の対応が求められている.放射性物質は2012年の「改正環境基本法」で公害物質と同様の扱いとなったが,環境省の環境影響評価の標準動植物(26種)として哺乳類からは齧歯類Rodentiaだけが指定されており,またモニタリング対象区域としても避難区域(20 km圏内)が主とされている.本報告の提言として,対象種にニホンザルや大型狩猟獣なども加え,また避難区域以外の地域での計画的で統一された手法によるモニタリングを行い,野生動物の管理対策や放射能影響による野生動物の保全管理対策を行うことが必要である.また,共同研究や情報の共有化,調査方法や影響評価方法の標準化,地元との情報交換や共有化,さらに成果情報の国内外への迅速な公開が必要と考える.

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© 2013 日本哺乳類学会
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