哺乳類科学
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53 巻 , 2 号
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原著論文
  • 浅田 正彦
    2013 年 53 巻 2 号 p. 243-255
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    個体群動態において,爆発的な個体数増加や分布拡大が発生する前段階として,個体数や分布が限られている時期を遅滞相(Lag-phase)という.千葉県におけるニホンジカ(Cervus nippon)とアライグマ(Procyon lotor)の捕獲記録における性比の時空間的変動に基づいて遅滞相の存在について考察し,千葉県印西市アライグマ防除事業の分析から低密度下での捕獲方法について検討した.両種において分布前線部や捕獲によって低密度となった地域ではオス比が高くなっており,アリー効果が発現している遅滞相にあると考えられた.このことから,根絶や地域的排除に至る前段階となる地域的な個体数管理手法として,捕獲個体のオス比などから推定できる「遅滞相の実現と維持」を管理目標にする「遅滞相管理Lag-phase management」を提案した.
  • 原科 幸爾, 後藤 雅文, 高橋 広和, 西 千秋
    2013 年 53 巻 2 号 p. 257-266
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    岩手県南西部に位置する胆沢扇状地では,1950年代から1960年代にかけて顕著な森林の分断化がみられ,樹林地がパッチ状に分布している.胆沢扇状地に分布する177箇所の小規模樹林地において,ニホンリス(Sciurus lis)による利用痕跡を調査した結果,109箇所において利用が確認された.つぎに,樹林地利用の有無を規定する要因として,オニグルミの有無,アカマツの有無,樹林地面積,広葉樹林面積,最近接樹林地までの距離,大規模樹林地(10 ha以上)までの距離,樹林地から最近接樹林地までの間に発生させたバッファ内の水田面積率,建物用地面積率,畑面積率,および道路密度の10の環境要因について検討した結果,バッファ内の建物用地面積率を除いた9の環境要因において,ニホンリスによる樹林地利用と有意な連関が認められた.これらの変数を用いてロジスティック回帰分析によるニホンリスの樹林地利用予測モデルを作成したところ,ベストモデルでは,オニクルミの有無および広葉樹林面積の2つが説明変数として選択された.モデルの精度検証のためにリスによる樹林地利用の追加調査を行った結果,予測的中率は75.9%であった.
  • 蔵本 洋介, 古谷 雅理, 甲田 菜穂子, 園田 陽一, 金子 弥生
    2013 年 53 巻 2 号 p. 267-278
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    タヌキ(Nyctereutes procyonoides)がフェンスを通過するために試みる行動を明らかにすることを目的として,2010年10月18日から2010年11月7日まで,捕獲したホンドタヌキ(N. p. viverrinus)3頭のフェンスに対する行動を実験装置において撮影および分析した.フェンスの素材として,高速道路において一般に設置されている菱形金網(高さ150 cm)を用い,上部には乗り越え防止装置を2種類(塩化ビニル板,トリカルネット)施した.掘削(成獣オス)や乗り越え(当年仔)により通過の成功が観察されたが,トリカルネットが張られているフェンスでは成功しなかった.トリカルネット,塩化ビニル板それぞれに対し,噛みつく,上方へ前肢を伸ばす,上方へ体を伸ばす行動がみられた.2011年10月から2012年10月の東京農工大学農学部キャンパスおよびFM多摩丘陵,東京都日の出町大久野付近の捕獲個体7頭の計測から,フェンスの網目の幅が前後肢の掌幅の最小値27 mmを下回ればフェンス上に留まることができないと考えられ,下顎の横幅12.4 mm以下であれば犬歯の位置まで顎を網目に入れられないためフェンスに噛みつくことができないと考えられた.前肢の前後方向への開きは最大53.6 cmであったことから,乗り越え防止装置の高さはそれ以上であれば前肢や体を伸ばしてもフェンス頂上に届かないと考えられた.
  • 小寺 祐二, 神崎 伸夫, 石川 尚人, 皆川 晶子
    2013 年 53 巻 2 号 p. 279-287
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    本研究は,島根県石見地方で捕獲されたイノシシ(Sus scrofa)の胃内容物を分析し,食性の季節的変化を明らかにすることを目的とした.調査では,1998年4月から1999年3月の間に島根県浜田市を中心に捕獲されたイノシシ294個体より胃内容物を採取し,ポイント枠法による食性分析を実施し,各食物項目の占有率および出現頻度を季節別(第I期:5,6月,第II期:7~9月,第III期:10~12月,第IV期:1~3月)に算出した.その結果,植物質の占有率および出現頻度は季節によらず高い値を示した.動物質の占有率でも季節的変化は確認されなかったが,最高値を示した第II期でも4.3%と低い値であった.植物質の部位別占有率については果実・種子を除く全ての部位で季節的変化が確認され,第II期は同化部,その他の季節は地下部を採食する傾向が確認された.また,地下部の内訳について見ると,第I期はタケ類(57.9%),第III期・第IV期は塊茎(それぞれ43.3%,21.3%)の占有率が高くなった.同化部は第II期の主要な食物となっており,その多くが双子葉植物で占有率は27.6%を示した.果実・種子の占有率については,堅果類が第III期・第IV期に20.0,20.4%と高い値を示し,水稲と果実は第II期にそれぞれ6.8,3.6%を示した.その他植物質の多くは繊維質であり,第I期は主にタケ類,第II期は双子葉植物,第III期・第IV期は塊茎から由来するものであった.調査個体群では第II期を除き植物質地下部が良質で重要な食糧資源になっていた可能性が示された.
  • 神戸 嘉一, 鈴木 莊介, 矢部 辰男, 中田 勝士, 前園 泰徳, 阿部 愼太郎, 石田 健, 谷川 力, 橋本 琢磨, 武田 美加子, ...
    2013 年 53 巻 2 号 p. 289-299
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    クマネズミはthe Rattus rattus species complexとも称され,複数の種からなる種複合体である.日本には古くに移入した東アジア地域起源のRattus tanezumi(2n=42)に加え,新規に移入したインド地域が起源のR. rattus(2n=38)の2系統が存在する.本研究ではこれらクマネズミ系統の日本列島における分布および移入の歴史を把握することを試みた.毛色関連遺伝子Mc1r(954 bp)をマーカーとし,奄美大島産を含む36個体の塩基配列データを新規に収集し,既存の配列データと合わせ,日本列島の17地点,さらに比較対象として用いたパキスタン産を含め,総計133個体のデータを基に系統学的解析を行った.その結果,小樽,小笠原諸島および東京の3地域でR. rattus型が認められ,これらの地点ではR. tanezumi型とのヘテロ接合体も存在した.これらの結果から,既存系統への浸透交雑が一部の市街部,港湾部および離島で進行している実態が明示された.一方,琉球列島の自然林では,R. rattus型のMc1rハプロタイプは認められなかった.これは,新たな外来系統R. rattusの定着や浸透交雑を起こさない何らかの要因が存在する可能性を示唆する.琉球列島には独自のMc1r配列の存在も認められ,他地域とは遺伝的に分化した集団として位置づけられる可能性も示唆された.
  • 西尾 翼, 高田 まゆら, 宇野 裕之, 佐藤 喜和, 柳川 久
    2013 年 53 巻 2 号 p. 301-310
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    本研究では,北海道十勝地域において頻繁にロードキルが発生しているアカギツネVulpes vulpes(以下キツネ)を対象に,北海道開発局が収集した国道におけるロードキルデータを用いて,その発生数が道路の交通量や道路周辺の景観構造およびエゾシカ(Cervus nippon yesoensis,以下シカ)の駆除・狩猟から受ける影響を検討した.2000~2009年のキツネの国道におけるロードキルデータを2つの季節に分け,国道を2 km毎に区切ったトランセクト内のロードキル発生数を目的変数とした一般化線形モデルによる解析を行った.考慮した影響要因は,トランセクト内の平均交通量,トランセクトの中心から半径1 km内に含まれる市街地,草地,農耕地,森林の面積率,河川総延長,景観の多様度指数,シカの平均駆除数,平均狩猟数,シカの平均生息密度指標である.その結果,産仔・育仔期(3月~8月)のキツネのロードキル発生数は局所的な交通量とともに増加したがある一定の交通量を超えると減少し,さらに道路周辺に草地が多くシカの狩猟数が多い場所で多くなった.分散・交尾期(9月~2月)のキツネのロードキル発生数は景観の多様度指数が高く,かつシカの密度指標が低い場所で多かった.本研究により,十勝におけるキツネのロードキル発生数と関係のある要因は季節によって異なることが示され,またキツネと景観の多様度との関係性やキツネによるシカ狩猟残滓利用の可能性,シカがキツネへ与える間接効果の可能性などキツネの生態に関するさまざまな仮説が提示された.
  • 田悟 和巳, 荒井 秋晴, 松村 弘, 中村 匡聡, 足立 高行, 桑原 佳子
    2013 年 53 巻 2 号 p. 311-320
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    森林性の中型食肉類であるテンMartes melampusを対象に,糞から抽出したDNAを用いて,個体数の推定を試みた.調査は熊本県阿蘇郡(以下,阿蘇)および佐賀県佐賀市(以下,佐賀)で行った.調査地域内で採集した糞のDNA分析の結果,阿蘇で95個体,佐賀で50個体を個体識別できた.各個体の確認期間から,定着個体と非定着個体に分けたところ,定着個体は阿蘇が13個体,佐賀が10個体であった.阿蘇では非定着個体が秋季に増加する特徴が見られたが,これは調査地の地形的な特徴から,移動路として利用する個体が多く確認されたためと考えられた.個体群密度は,阿蘇で0.14~0.19個体/ha,佐賀で0.09~0.13個体/haであった.これはこれまで知られているテン属の中では特出して高い数値であった.また,親子ではない同性間の成獣において,利用地域が重複する場合があることが確認され,必ずしもテンが排他的ではないことが示唆された.
  • 山本 さつき, 鈴木 馨, 松浦 友紀子, 伊吾田 宏正, 日野 貴文, 高橋 裕史, 東谷 宗光, 池田 敬, 吉田 剛司, 鈴木 正嗣, ...
    2013 年 53 巻 2 号 p. 321-329
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    銃器捕殺の勢子による追い込み狙撃法(n=4),大型囲いワナ(銃)(n=6),出会いがしらに狙撃するストーキング(n=9),シャープシューティング(n=14),および麻酔薬を用いた不動化捕獲の移動式囲いワナのアルパインキャプチャー(n=14),大型囲いワナ(麻)(n=8),待ち伏せ狙撃するフリーレンジ(n=10)を用いてニホンジカ(Cervus nippon)を捕獲した.肉体的ストレスの指標として測定したクレアチンキナーゼは,追い込み狙撃法(2,057±1,178 IU/L)がシャープシューティング以外の全ての捕獲方法より,また交感神経興奮の影響を反映するアドレナリン,ノルアドレナリンは,追い込み狙撃法(アドレナリン:16.500±4.655 ng/ml,ノルアドレナリン:20.375±8.097 ng/ml)が他の全ての捕獲方法より有意に高かった(P<0.05).精神的ストレスの指標として測定したコルチゾルは,囲いワナ(アルパインキャプチャー:2.63±1.90 mg/dl),大型囲いワナ(銃:1.38±0.50 mg/dl)および大型囲いワナ(麻:3.10±1.79 mg/dl)が他の捕獲方法より高い傾向が見られたが,これらは全てGaspar-Lópezほか(2010)により報告されたアカシカ(Cervus elaphus)の正常変動範囲内(1.30~6.49 mg/dl)であった.以上の結果から,追い込み狙撃法は身体的負荷が大きいこと,囲いワナは他の方法に比較して著しいストレス反応を伴う捕獲方法ではないことが明らかになった.よって,大量捕獲が可能な囲いワナで生息密度を低下させることは,アニマルウェルフェアに配慮した適切な個体数管理の手法になりうると考えられた.
短報
  • 亘 悠哉, 船越 公威
    2013 年 53 巻 2 号 p. 331-334
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    リュウキュウテングコウモリMurina ryukyuanaによる日中ねぐらとしての枯葉の利用を徳之島において3例記録した.これにより,これまでにほとんど情報のなかった本種の自然条件下でのねぐら利用の一端が明らかになった.利用していた枯葉の樹種は,イイギリIdesia polycarpa,アオバノキSymplocos cochinchinensis,フカノキSchefflera heptaphyllaであり,これらに共通する特徴として,1枚1枚の葉が大きく,枯れると椀状に変形すること,また葉のつき方が放射状で,枝折れにより枝先の葉が枯れると複数の葉が合わさって群葉状になるという点が挙げられた.同属のコテングコウモリで記録されている幅広い日中ねぐら場所の利用形態を考慮すると,本種も枯葉以外の様々なタイプのねぐらを利用している可能性は十分に考えられる.今後,今回のような観察情報を蓄積することともに,行動の追跡調査などを進めることで,本種のねぐら利用の全体像の把握につながるであろう.
  • 篠原 明男, 山田 文雄, 樫村 敦, 阿部 愼太郎, 坂本 信介, 森田 哲夫, 越本 知大
    2013 年 53 巻 2 号 p. 335-344
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    アマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)は奄美大島に生息し,性染色体がXO/XO型(2n=25)という特異的な生物学的特性を持っているが,絶滅に瀕している.そこで本研究ではアマミトゲネズミの保全および将来的な実験動物化を目的として,その長期飼育を試みた.鹿児島県奄美大島で捕獲されたアマミトゲネズミ7個体(雌6個体,雄1個体)を,一般的な実験動物と同様の飼育環境(環境温度23±2°C,湿度50±10%,光周期L:D=12h:12h)に導入し,実験動物用の飼育ケージ,給水瓶,床敷きを用いて飼育した.飼料はスダジイ(Castanopsis sieboldii)の堅果,リンゴおよび実験動物用飼料を給与した.導入した7個体のうち6個体は937~2,234日間生存し,平均して4年以上(1,495.8±434.3日)の長期飼育に成功した.体重変動,飼料摂取量,摂水量および見かけの消化率の結果から,本研究に用いた実験動物用飼料はアマミトゲネズミの長期飼育に適していると考えられた.また,中性温域は26°C以上である可能性が示唆された.さらに,本種は飼育下においても完全な夜行性を示すことが明らかとなった.本研究によりアマミトゲネズミの終生飼育には成功したものの,飼育室下における繁殖の兆候は一切観察されなかった.今後,アマミトゲネズミの保全および実験動物化を目的とした飼育下繁殖には,飼育温度条件の見直しが必要であると考えられる.
  • 川村 貴志, 幸田 良介, 立澤 史郎
    2013 年 53 巻 2 号 p. 345-350
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    牧場はシカの良好な餌場となり,個体数増加にも影響しうるが,屋久島におけるヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)の牧場利用の実態は不明である.屋久島町営長峰牧場において2006年から2009年にかけてほぼ毎月の頻度で行ったスポットライトカウントの結果,平均で420頭/km2と非常に多くのヤクシカが牧場を利用していること,日没後すぐの時間帯や放牧地の耕耘があった場合の密度は低いことが明らかとなり,ヤクシカの牧場利用に人間の活動や利用できる牧草量が影響していることが示唆された.一方で屋久島においてはシカの牧場利用個体の密度について北日本でみられるような明確な季節変動は見られなかった.この原因として,屋久島の牧場が照葉樹林帯に位置し,餌資源の季節変動が小さいことが考えられた.長峰牧場と牧場周辺のヤクシカを取り巻く環境は2010年以降に激変しており,モニタリングの継続が求められる.
  • 船越 公威, 坂田 拓司, 河合 久仁子, 荒井 秋晴
    2013 年 53 巻 2 号 p. 351-357
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    クロホオヒゲコウモリMyotis pruinosusの九州における生息分布は,これまで宮崎県綾町照葉樹林における捕獲記録だけであった.今回,熊本県でも生息が確認されたので報告する.確認場所は熊本県東部の山都町内大臣渓谷にある隧道トンネルの天井の窪みで2007年9月30日,2008年7月27日および8月24日に成獣雄各1頭が確認された.また,2011年11月27日に同トンネルで成獣雌1頭が確認された.背面の体毛は灰黒褐色または黒褐色でクロホオヒゲコウモリの特徴である差し毛に銀色の光沢がない個体もみられた.しかし,側膜がモモジロコウモリM. macrodactylusと違って外足指の付け根に着いていること,九州ではヒメホオヒゲコウモリM. ikonnikoviが分布せず尾膜の血管走行が曲線型でなかったことを考慮して,クロホオヒゲコウモリと判定した.また,熊本県産2個体のミトコンドリアDNA(cytochrome b遺伝子1140 bp)を解析した結果,クロホオヒゲコウモリであることが支持されたが,種内の遺伝的変異が比較的大きく地理的変異があることが認められた.前腕長や下腿長は九州産の方が本州・四国産よりも大きかった.頭骨の形状についても,九州産では本州・四国産のものに比べて頭骨基底全長が短く,眼窩間幅や脳函幅が広かった.頭骨計測8項目を基に主成分分析を行った結果,九州産は本州・四国産との間で明瞭に分離された.
国際会議報告
奨励賞受賞者による研究紹介
フォーラム
  • 山田 文雄, 竹ノ下 祐二, 仲谷 淳, 河村 正二, 大井 徹, 大槻 晃太, 今野 文治, 羽山 伸一, 堀野 眞一
    2013 年 53 巻 2 号 p. 373-386
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/01/31
    ジャーナル フリー
    東日本大震災が起きて約2年半が経過し,福島原発事故で放出された放射性物質による野生動物への蓄積と影響についての調査研究が取り組まれつつあるが,全体的な実態や野生動物の管理について,人間活動の制限もあり不十分な点が多い.このため本稿では,野生哺乳類のモニタリングや管理問題について,特にニホンザルMacaca fuscata(以下サルとする)や大型狩猟動物を対象に最近の知見を報告し,今後のあり方について総合的な視点から検討を加え,いくつかの提言をまとめた.福島県の高線量地域(避難区域の南相馬市など)における放射能汚染によるサルの餌への影響,耕作状況の変化によるサルの行動変化,および捕獲サルからの極めて高い数値の放射性セシウムの体内蓄積量が報告された.さらに,中線量地域(避難区域外の福島市)で捕獲されたサルの放射性セシウムの体内蓄積量を事故直後から最近まで継続的にモニタリングしたところ,特に事故当年に極めて高い値を示し,白血球の減少など健康への影響も認められた.大型狩猟獣では,高中線量地域の福島県内や低線量地域の周辺の県においても,食品の規制値(100 Bq/kg,2012年の新基準値)を超える個体が存在した.さらに,高線量地帯の避難区域では人の立ち入りが禁止されているため,野生動物の管理が困難となり,野生動物の個体数増加や行動圏の変化が起きていることや,さらに低線量地域においても,狩猟の低下による野生動物の個体数増加による人間との軋轢の問題が起きており,今後の対応が求められている.放射性物質は2012年の「改正環境基本法」で公害物質と同様の扱いとなったが,環境省の環境影響評価の標準動植物(26種)として哺乳類からは齧歯類Rodentiaだけが指定されており,またモニタリング対象区域としても避難区域(20 km圏内)が主とされている.本報告の提言として,対象種にニホンザルや大型狩猟獣なども加え,また避難区域以外の地域での計画的で統一された手法によるモニタリングを行い,野生動物の管理対策や放射能影響による野生動物の保全管理対策を行うことが必要である.また,共同研究や情報の共有化,調査方法や影響評価方法の標準化,地元との情報交換や共有化,さらに成果情報の国内外への迅速な公開が必要と考える.
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