哺乳類科学
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原著論文
ニタリクジラBalaenoptera edeniの寛骨(痕跡的骨盤)の形態
宮川 尚子加藤 秀弘
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2015 年 55 巻 1 号 p. 1-10

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抄録

鯨類の後肢は進化の過程で退化し,現生鯨類では後肢の名残として縮小した寛骨が体内に存在している.現生鯨類の寛骨の形態には種差,雌雄差があることが報告されているが,その報告数は多くない.また,現生鯨類の寛骨は特に若齢期には大部分が軟骨で構成されていることが報告されており,軟骨を切除した標本では骨の正確な形態が把握できない可能性がある.そこで本研究では体が大きく研究の難しいヒゲクジラ類の中でも,これまで寛骨の形態に関する報告のないニタリクジラBalaenoptera edeniを対象に,軟骨が付随した寛骨の基礎的形態,特に雌雄差について明らかにした.ニタリクジラの寛骨頭側端は尾鰭分岐点から体長の29%の位置に,尾側端は27%の位置にあった.本研究からニタリクジラの寛骨形態には2つの型があり,ナガスクジラ科鯨類の寛骨に一般的に観察される形である頭側部が細長い棒状で,中央部に外側に向かう突起(外側突起)がある基本型と,棒状の頭側部が欠損する頭部欠損型が確認された.基本型では性成熟個体で明確な雌雄差が確認され,雌の寛骨は雄よりも薄く,外側突起が尾側に位置し,外側突起部の幅が広いことが明らかになった.また,寛骨頭側部断面の形態は,雄は背腹方向に,雌は内外側方向に扁平であった.これまでの鯨類の寛骨に付着する筋の研究結果からニタリクジラにおいても寛骨と生殖器が関連している可能性が示唆された.また,これまで報告された現生鯨類の寛骨形態とニタリクジラの寛骨形態を比較したところ,現生鯨類の寛骨の形態は系統を反映している可能性が示唆された.さらに,ニタリクジラの寛骨の特徴のうち,同種内で寛骨形態に2つの型があること,頭部欠損型の存在,寛骨頭側部断面の形態の雌雄差は他の鯨種で報告がなく,これはニタリクジラ特有の特徴であると考えられた.

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© 2015 日本哺乳類学会
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