哺乳類科学
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55 巻 , 1 号
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原著論文
  • 宮川 尚子, 加藤 秀弘
    2015 年 55 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/04
    ジャーナル フリー
    鯨類の後肢は進化の過程で退化し,現生鯨類では後肢の名残として縮小した寛骨が体内に存在している.現生鯨類の寛骨の形態には種差,雌雄差があることが報告されているが,その報告数は多くない.また,現生鯨類の寛骨は特に若齢期には大部分が軟骨で構成されていることが報告されており,軟骨を切除した標本では骨の正確な形態が把握できない可能性がある.そこで本研究では体が大きく研究の難しいヒゲクジラ類の中でも,これまで寛骨の形態に関する報告のないニタリクジラBalaenoptera edeniを対象に,軟骨が付随した寛骨の基礎的形態,特に雌雄差について明らかにした.ニタリクジラの寛骨頭側端は尾鰭分岐点から体長の29%の位置に,尾側端は27%の位置にあった.本研究からニタリクジラの寛骨形態には2つの型があり,ナガスクジラ科鯨類の寛骨に一般的に観察される形である頭側部が細長い棒状で,中央部に外側に向かう突起(外側突起)がある基本型と,棒状の頭側部が欠損する頭部欠損型が確認された.基本型では性成熟個体で明確な雌雄差が確認され,雌の寛骨は雄よりも薄く,外側突起が尾側に位置し,外側突起部の幅が広いことが明らかになった.また,寛骨頭側部断面の形態は,雄は背腹方向に,雌は内外側方向に扁平であった.これまでの鯨類の寛骨に付着する筋の研究結果からニタリクジラにおいても寛骨と生殖器が関連している可能性が示唆された.また,これまで報告された現生鯨類の寛骨形態とニタリクジラの寛骨形態を比較したところ,現生鯨類の寛骨の形態は系統を反映している可能性が示唆された.さらに,ニタリクジラの寛骨の特徴のうち,同種内で寛骨形態に2つの型があること,頭部欠損型の存在,寛骨頭側部断面の形態の雌雄差は他の鯨種で報告がなく,これはニタリクジラ特有の特徴であると考えられた.
  • 松浦 友紀子, 伊吾田 宏正, 岡本 匡代, 伊吾田 順平
    2015 年 55 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/04
    ジャーナル フリー
    日本では,食肉として流通するニホンジカ(Cervus nippon)の内臓摘出は解体処理場で行うことが推奨されている.それに対してシカ肉の流通が盛んな欧州連合では,肉の品質保持および衛生的観点から,野外での内臓摘出が認められている.本研究では,野外での内臓摘出の導入について検討するため,野外で内臓摘出した肉の衛生状態を明らかにした.調査は従来の方法である解体処理場で内臓摘出した4個体の枝肉と,野外で内臓摘出した10個体の枝肉を用い,肉表面の一般生菌,大腸菌群,O-157,カンピロバクター,サルモネラ,エルシニアについて比較した.野外の内臓摘出は,北海道北部に位置する西興部村で実施した.従来の方法は,北海道西部にある解体処理場のシカを用いて実施した.ふき取り検査の結果,どちらの肉も一般生菌以外は検出されなかった.また,どちらの肉も一般生菌数は汚染の目安となる基準値より低く,とくに積雪期で顕著だった.これにより,野外でも衛生的な内臓摘出が可能であることが明らかになった.ただし,今回実施した野外での内臓摘出は,衛生的な状態を保つためにできるだけ配慮した手法を取っており,衛生管理の正確な知識と技術が必要である.欧州連合の衛生管理をモデルに野獣肉検査資格制度を導入し,捕獲個体の検査体制を整備した上で,野生動物に特化した一次処理方法として,野外での内臓摘出を検討すべきであると考えられた.
短報
  • 安田 雅俊, 船越 公威, 南 尚志
    2015 年 55 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/04
    ジャーナル フリー
    2013年12月から2014年2月まで,鹿児島県大隅半島南部の低標高の照葉樹林において,巣箱と自動撮影カメラを組み合わせた方法でヤマネGlirulus japonicusの活動性を調査したところ,冬期に20日以上の間をあけずに,しばしば撮影された.調査地における調査期間中の日平均気温の平均値は9.0°C(範囲:3.5~16.8°C)で,ヤマネが冬眠入りする目安とされる気温(8.8°C)と同程度であった.九州南部のヤマネは冬眠期間が短いか,冬期の暖かい時期に一部の個体が冬眠から覚醒して活動している可能性がある.また,暖冬などの気候条件によっては冬眠しない個体の出現が予想される.
  • 福岡 恵子, 本川 雅治
    2015 年 55 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/04
    ジャーナル フリー
    本研究は鰭脚類3科のうち,運動様式が異なるアシカ科(前肢遊泳型)とアザラシ科(後肢遊泳型)においてdiaphragmatic vertebraの位置にみられる違いを調べた.その結果,diaphragmatic vertebraがアシカ科では脊柱の尾側に,アザラシ科では脊柱の頭側に変位するという違いがみられた.変位は椎骨数変異の生じていない正常個体においても認められた.diaphragmatic vertebraは胸椎型椎骨と腰椎型椎骨の境界となる椎骨であり,その変位により,それぞれの領域が拡縮する.胸椎型および腰椎型椎骨は運動特性が互いに異なり,前肢遊泳型のアシカ科では胸椎型椎骨領域が,後肢遊泳型のアザラシ科では腰椎型椎骨領域が大きい方がそれぞれの遊泳により適していることから,両科で変位の方向に違いが生じたことが示唆された.
報告
  • 安田 雅俊, 松尾 公則
    2015 年 55 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/04
    ジャーナル フリー
    九州北部の照葉樹林(長崎県多良山系,標高400 m)において,巣箱と自動撮影カメラを組み合わせた方法(巣箱自動撮影法)で,ヤマネGlirulus japonicusの活動周期を2011年10月から2014年3月までの30ヶ月間連続的に調査した.ヤマネは冬の一時期(12月中旬あるいは1月上旬から2月下旬までの2ヶ月以上3ヶ月未満)を除き,ほぼ通年,高頻度に撮影された.回帰式を用いて最寄りの気象観測所の旬平均気温から調査地の旬平均気温を推定することで,冬眠時期の気温を推定することができた.巣箱自動撮影法は,本種の冬眠の研究だけでなく,野生個体の日周活動の研究にも利用できる有効なツールであることが示された.
  • 江成 広斗, 渡邊 邦夫, 常田 邦彦
    2015 年 55 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/04
    ジャーナル フリー
    2014年5月に鳥獣保護法は改正され,増加傾向にある野生動物の捕獲事業は今後より重視されることとなる.戦後,ニホンザル(Macaca fuscata)は狩猟鳥獣から除外されたものの,農作物被害の軽減を目的に捕獲は増加の一途をたどっており,その数は2010年に2万頭を超えた.捕獲は被害対策のオプションとして以前から各地で採用されてきた一方で,その実態や有効性についてこれまでほとんど検証されてこなかった.そこで,これからのニホンザル捕獲施策の効果的な運用に資することを目的に,本種の捕獲を実施している全国の542市町村を対象に,現行の捕獲事業の実態とその有効性を評価するアンケートを2009年に実施した.回答数は366,回収率は67.5%であった.主な結果として,(1)特定鳥獣保護管理計画の策定割合が高い東日本を含め,多くの市町村で「有害鳥獣捕獲」による駆除が重視されている,(2)捕獲は市町村が主体となり猟友会に一任する構図が全国共通である,(3)曖昧な捕獲数の算定根拠が各地の市町村で散見される,(4)捕獲手法として銃の利用が全国共通で主流である一方,多頭捕獲が可能な中・大型罠による捕獲は近畿・東海・四国に限られる,(5)多くの市町村で捕獲効果の有効性について判定できておらず,その原因としてモニタリング体制の不備,及び捕獲目的の曖昧さが考えられる,(6)多頭捕獲を実施している市町村で被害軽減効果が実感されているケースがある一方で,多くの市町村で捕獲技術が普及していない,などが確認された.これらの結果をもとに,本稿ではニホンザル捕獲という対策オプションの今後の課題について考察した.
  • 浅利 裕伸
    2015 年 55 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/04
    ジャーナル フリー
    これまでのタイリクモモンガ(Pteromys volans)の研究では,個体の捕獲に巣箱が活用されてきたが,本種は厳冬期に巣箱を利用しないため通年の調査が困難であった.そこで,通年にわたって個体データを収集するための効果的な捕獲方法の確立を目的として,新たな樹洞トラップを開発し,タイリクモモンガが使用している樹洞の入り口にこれを設置した.トラップ内にはプラスティック板の返しを装着することにより,一度入ると樹洞に戻ることができない工夫を施した.北海道帯広市の樹林において,2006年1月~2008年4月に38個体の捕獲を試みた結果,33個体を捕獲することに成功した.残りの5個体は同居するグループの一部の個体であり,厳冬期に出巣しなかったために捕獲ができなかった.厳冬期はタイリクモモンガの活動が低下し,活動時間も不規則になることから,樹洞トラップを用いても樹洞内の全個体を捕獲することは困難であると考えられる.しかし,確認された個体の7割以上を捕獲することが可能であり,それ以外の季節では幼獣を含むすべての個体を捕獲することができたため,巣箱を用いた捕獲と比べて定期的な個体データの収集に,より有効な手法であると考えられる.
  • 中園 美紀, 岩佐 真宏
    2015 年 55 巻 1 号 p. 59-65
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/07/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,地表棲小型哺乳類の生態研究への応用を目的とした自動撮影センサーカメラの使用法を検討した.まず通常の水平方向での撮影を行ったところ,被写体はきれいに撮影されるものの,種同定に重要な情報になり得る体サイズを把握することができなかった.そこで,被写体の焦点距離を一定にできるよう,三脚に自動撮影センサーカメラを固定して上方から垂直方向に撮影する方法を試行した.その際,地面には10 mmメッシュの方眼が描かれたカッターマットを敷き,そのマット中央に誘因用の餌(オートミール)が入った釣り用のサビキカゴを固定して設置した.またカメラバッテリーを24時間以上維持させるため,撮影のインターバルを1分間とした.その結果,ほぼ一定の倍率で被写体が撮影され,体サイズを計測することが可能になり,尾長等からドブネズミRattus norvegicusやヒミズUrotrichus talpoidesは容易に同定可能であった.一方,形態の酷似するアカネズミApodemus speciosusとヒメネズミA. argenteusは,眼球直径と左右の眼球間の外縁幅と内縁幅の差を用いることで正確に同定できた.さらに本使用法により,アカネズミの活動時間帯について,2013年11月~2014年10月に神奈川県藤沢市石川丸山谷戸で調査したところ,日没前後から日出前までの時間帯に撮影されたことから,先行研究と同様,本種はほぼ夜行性であることが示唆された.したがって,本研究で検討した自動撮影センサーカメラの使用法は,地表棲小型哺乳類の生態研究に活用できることが明らかになった.
日本哺乳類学会2014年度大会企画シンポジウム記録
日本哺乳類学会2014年度大会自由集会記録
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