哺乳類科学
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原著論文
九州で初めて生息が確認されたニホンウサギコウモリPlecotus sacrimontisの生息状況,形態と音声の特徴および遺伝的変異
船越 公威河合 久仁子原田 正史荒井 秋晴渡邊 啓文
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2015 年 55 巻 2 号 p. 125-132

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抄録
これまで,九州地域ではウサギコウモリ属(Plecotus)の生息記録がなく,分布していないとされていた.今回,大分県で生息が確認されたので報告する.確認場所は,大分市野津原町の鉱山廃坑とダム工事横坑の天井の窪みで,2003年1月18日,2007年11月15日に観察され,2010年3月4日,2011年3月14日および2012年5月23日に各成獣雄1頭が捕獲された.また,2013年3月27日に野津原町の調査地点から北西へ約40 km離れた大分県玖珠町の隧道で,成獣雌1頭が捕獲された.2010年に捕獲された個体の尾膜片を採取してDNA抽出を行い,ミトコンドリアDNA Cyt-b遺伝子の配列を決定した.その結果,本研究において捕獲した個体は,韓国・中国産とではなく,北海道・本州産と非常に高い相同性を示し,九州産を含めて単系統群を形成することが示されたことによりニホンウサギコウモリPlecotus sacrimontisと同定された.九州産の個体の前腕長は本州産に比べて短く,また頭骨の形状については,小型で吻部がやや退縮していることが示唆された.頭骨計測13項目を基に主成分分析を行った結果,中部地方産の変異内に包含されるが,九州産と近畿・四国産の間で明瞭に分離された.飛翔時の音声について,北海道産と類似するが,始部周波数(SF)値は少し低く終部周波数(EF)値は高いことから,地域差があることが示唆された.
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© 2015 日本哺乳類学会
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