哺乳類科学
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原著論文
夏期のツキノワグマによる針葉樹林の利用とアリ類の営巣基質としての枯死材との関係
安江 悠真青井 俊樹國崎 貴嗣原科 幸爾高橋 広和佐藤 愛子
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2015 年 55 巻 2 号 p. 133-144

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抄録

夏期のツキノワグマ(Ursus thibetanus)は針葉樹林を頻繁に利用するが,その詳しい理由は明らかにされていない.その理由の一つは,ツキノワグマの主要食物と考えられているアリ類が針葉樹林に多く存在するためと推測される.そこで本研究は,夏期のツキノワグマの環境利用と,アリ類の営巣基質としての枯死材及びその現存量との関係を明らかにし,針葉樹林利用との関係を検討することを目的として行った.まず,岩手県遠野市を中心とする北上山地において,2012年6月から8月にかけて,野生動物のリアルタイムな追跡が可能なシステム「GPS-TX」により,ツキノワグマの行動(2個体,追跡期間はそれぞれ13日間と6日間)を,現地踏査を含めて詳細に追跡した.その結果,追跡個体が針葉樹林を頻繁に利用し,枯死材に営巣するアリ類を採食していることが確認された.次いで,森林内における枯死材の現存量を調査した結果,枯死材は林地残材の残る針葉樹人工林において豊富に存在し,さらに,腐朽した枯死材であるほどツキノワグマに頻繁に利用されている可能性が示唆された.これらの結果から,枯死材に営巣するアリ類は夏期のツキノワグマの食物として機能しており,また,特に針葉樹人工林における枯死材は,アリ類の供給源として重要な役割を担っていると考えられた.さらに,切捨て間伐や間伐後の経過年数など,針葉樹人工林における森林施業が,夏期のツキノワグマの食物の資源量に強く影響している可能性も示唆された.

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© 2015 日本哺乳類学会
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