哺乳類科学
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原著論文
ブナ科堅果結実量の年次変動にともなうツキノワグマの秋期生息地選択の変化
根本 唯小坂井 千夏山﨑 晃司小池 伸介中島 亜美郡 麻里正木 隆梶 光一
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2016 年 56 巻 2 号 p. 105-115

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抄録

ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の生息地選択と秋の重要な食物資源であるブナ科堅果の結実量の年次変動との関係を明らかにすることは,本種の保護管理上の重要な課題である.これまで本種の生息地選択には既存の植生図が用いられることが多かったが,精度の観点からツキノワグマの生息地選択を詳細に評価することは難しいことが指摘されている.そこで本研究では,ツキノワグマの生息地選択の詳細を明らかにするために,新たに高精度植生図を作成し生息地の植生を評価した.さらに,その有効性を現地調査による植生調査によって確かめた.具体的には,調査地(足尾・日光山地)に生育するブナ科樹種の中でも特に優占するミズナラ(Quercus crispula)堅果の不作年と並作年において,ツキノワグマが秋に集中的に利用していた場所の植物の樹種構成および各植生タイプの選択性について比較した.並作年には,現地での植生調査により,ツキノワグマはミズナラが優占する場所を集中的に利用しており,高精度植生図を用いた解析からは,ミズナラ林への選択性があることが確認された.不作年には,並作年と同様にミズナラが最も優占する地域を集中的に利用していたが,その地域にはミズナラ以外にもコナラ(Q. serrata)などの複数のブナ科樹種が出現した.一方,高精度植生図からはミズナラや他のブナ科樹種に対する有意な選択性は確認できなかった.以上の結果から,ツキノワグマは不作年においてもミズナラへの嗜好性が強いことが明らかとなり,さらに不作年ではミズナラの不足を補完するために,他のブナ科樹種の堅果を利用することで対応していたことも示唆された.

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© 2016 日本哺乳類学会
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