哺乳類科学
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原著論文
兵庫県における高密度下でのニホンジカの繁殖特性
松金(辻) 知香横山 真弓
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2018 年 58 巻 1 号 p. 13-21

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抄録

シカ類の個体群動態は生息密度の影響を受けることが報告されており,個体数管理において,繁殖特性を把握し密度依存的変化を明らかにすることは重要である.しかし開放個体群では,密度変化とともに繁殖状況の変化を追跡した事例は極めて少ない.

本研究では,兵庫県におけるニホンジカ(Cervus nippon)個体群の年齢別繁殖情報を長期的に明らかにした.2003年から2016年にメス627頭から胎子,卵巣,下顎骨の標本を収集分析し,年齢区分ごとの妊娠率を算出した.また,捕獲時に体重を測定した.その結果,2歳以上の成獣の妊娠率は2004年を除いて80%以上を維持していた.一方,1歳の妊娠率は15.6%であり,本地域における過去の報告の76.3~76.6%と比較すると著しく減少した.また1歳の体重においては,非妊娠個体は妊娠個体よりも約10 kg少なかった.調査期間中のシカ生息密度は20~30頭/km2であり,シカの採食による深刻な森林下層植生の衰退が続くほどの高密度状態であった.1歳については,高密度状態の長期化の影響を受けて,繁殖期に妊娠可能となる体重に達する個体が減少したために,妊娠率が著しく低下したと考えられた.本研究は西日本の開放個体群において,1歳の妊娠率の低下を科学的データで示した初めての報告となる.

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© 2018 日本哺乳類学会
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