哺乳類科学
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58 巻, 1 号
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原著論文
  • 繁田 真由美, 繁田 祐輔, 田村 典子
    2018 年 58 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    リス科では,生活型の違いに応じて仔の行動発達過程に差があり,滑空性,樹上性,地上性の順に巣外に出るまでの時間が長いことが知られている.しかし,巣内における行動発達の過程に関する詳細な研究は乏しい.そこで本研究では,滑空性のムササビ(Petaurista leucogenys)の仔の行動発達過程を明らかにするため,カメラボックスを装着した巣箱を野外に架設し,出産から73日間連続録画できた仔の行動目録を作成した.その結果,26項目の行動が確認され,このうち8項目(乗る,バランスをとる,伸びジャンプ,反り返る,後肢を外転させる,飛膜を広げる,飛膜グルーミング,前肢で引寄せ)についてはリス科他種ではこれまで報告がないムササビ特有の行動であった.さらに,各行動の出現時期や頻度の変化を解析したところ,36日齢の開眼前後から多くの行動が発現することが明らかになった.またこれらの行動は巣外で活動するようになる68日齢まで,頻度と熟練度が増し,複雑な行動に発達した.巣外に出る日齢はリス科他種と比べて遅かった.ムササビの仔は,リス科他種と比べて,巣から出るまでに習得すべき運動能力が高く,行動内容も複雑であることから,巣内で時間をかけて,樹上生活および滑空生活に必要な行動が獲得されていると考えられる.

  • 松金(辻) 知香, 横山 真弓
    2018 年 58 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    シカ類の個体群動態は生息密度の影響を受けることが報告されており,個体数管理において,繁殖特性を把握し密度依存的変化を明らかにすることは重要である.しかし開放個体群では,密度変化とともに繁殖状況の変化を追跡した事例は極めて少ない.

    本研究では,兵庫県におけるニホンジカ(Cervus nippon)個体群の年齢別繁殖情報を長期的に明らかにした.2003年から2016年にメス627頭から胎子,卵巣,下顎骨の標本を収集分析し,年齢区分ごとの妊娠率を算出した.また,捕獲時に体重を測定した.その結果,2歳以上の成獣の妊娠率は2004年を除いて80%以上を維持していた.一方,1歳の妊娠率は15.6%であり,本地域における過去の報告の76.3~76.6%と比較すると著しく減少した.また1歳の体重においては,非妊娠個体は妊娠個体よりも約10 kg少なかった.調査期間中のシカ生息密度は20~30頭/km2であり,シカの採食による深刻な森林下層植生の衰退が続くほどの高密度状態であった.1歳については,高密度状態の長期化の影響を受けて,繁殖期に妊娠可能となる体重に達する個体が減少したために,妊娠率が著しく低下したと考えられた.本研究は西日本の開放個体群において,1歳の妊娠率の低下を科学的データで示した初めての報告となる.

短報
  • 大石 圭太, 新垣 拓也, 中村 麻美, 畑 邦彦, 曽根 晃一
    2018 年 58 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    アカネズミ(Apodemus speciosus)の行動圏のサイズや空間配置,行動圏内での個体の移動を調べるため,2009年~2012年に,マテバシイ(Pasania edulis)が優占する常緑広葉樹林とそれに隣接するスギ(Cryptomeria japonica)の人工林で,ラジオテレメトリー法を用いて,オス17個体,メス8個体を追跡し,95%最外郭法で,オス17サンプル,メス19サンプルの行動圏を推定した.9月下旬~11月下旬のマテバシイの堅果落下時期に,行動圏の面積や1夜の間に連続して定位された地点間の距離は,特にオスで大きくなった.この時期には,3時間以内に約100 m移動した個体もみられた.林分境界付近では,個体間で重複する行動圏がみられた.アカネズミの行動圏の配置やサイズ,行動圏内での移動は個体によって様々であったが,堅果落下時期に広葉樹林と人工林を含む行動圏を持ち,日常的に両林分を行き来し,人工林内に巣穴があった個体が3個体みられた.このような個体が,種子散布者として,針葉樹人工林への広葉樹の侵入に貢献しているのではないかと考えられた.

  • 関 伸一, 安田 雅俊
    2018 年 58 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    クリハラリスCallosciurus erythraeusは日本各地で野生化し分布を拡大しつつある外来の樹上性リスであり,鳥類の巣で卵や雛を捕食して繁殖を阻害すると推測されているが,捕食行動の観察事例は稀である.そこで,クリハラリスが高密度に生息する大分県の高島において,鳥類の巣を模した擬巣にウズラCoturnix japonicaの卵を入れて森林内に設置し,自動撮影カメラで捕食者を特定することによりクリハラリスによる卵捕食の頻度を調査した.3週間後には25個の擬巣のうち24個(96%)で卵が消失し,いずれも最初に巣の入り口で撮影されたのはクリハラリスであったことから,全てクリハラリスが卵を捕食したものと推定された.9個の巣では捕食者となる可能性のあるハシブトガラスCorvus macrorhynchosおよびクマネズミRattus rattusも撮影されていたが,いずれもクリハラリスが複数回訪れた後での記録であった.クリハラリスが擬巣の入り口に最初に接触した日時を捕食の時期とすると,卵が捕食されるまでの平均日数は2.7日で,1日あたりの擬巣の生残確率は0.72と低く,クリハラリスが鳥類の繁殖に対して影響の大きい捕食者となっている可能性が示された.狭い行動圏内で複数個体が重複して食物の探索をするクリハラリスの生息地の利用様式によって,その他の捕食者による場合と比べて短期間に高い確率で擬巣が発見され,捕食されるのかもしれない.

  • 江口 則和, 石田 朗, 山下 昇, 高橋 啓, 弥富 秀文
    2018 年 58 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    GPS衛星を利用して取得した位置情報をアルゴス衛星経由で収集できるGPS-アルゴス首輪が,国内でのニホンジカ(Cervus nippon,以下シカ)の追跡に利用可能かどうかを,愛知県東部の山村地域で調査した.アルゴス衛星へのデータ通信量は,非森林(主に農地)から送信した場合に比べて,森林から送信した場合に低下した.2時間ごとの測位設定で収集した7個体32~333日分のデータを解析したところ,GPSデータ取得率は53.1~90.7%,測位成功データのGPSデータ取得率は34.1~58.3%であり,これらの値は海外での研究事例と同程度であった.本システムは国内でも海外と同様に利用でき,特に通信時間帯に農地を利用するシカの追跡調査には有効なツールと考えられた.

報告
2017年度大会公開シンポジウム記録
2017年度大会企画シンポジウム記録
2017年度大会自由集会記録
学会賞受賞者2016
奨励賞受賞者による研究紹介2016
学会賞受賞者2017
奨励賞受賞者による研究紹介2017
連載 日本の哺乳類学,歴史的展開2
  • 下稲葉 さやか, 安田 雅俊
    2018 年 58 巻 1 号 p. 161-174
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    昭和初期(1920年代),日本は東~東南アジアおよび南太平洋各地に領土を拡大した.それにともなって各地で標本を収集し,新種を記載し,哺乳類相を検討するような分類学的,生物地理学的研究が日本出身の研究者によって始められ,急速に最盛期を迎える.明治期以降にはじまった日本の動物学において人材育成が進んだことを背景に,哺乳類学者の研究対象とする分類群や研究手法が多様化していく.東京圏の外に多くの大学や研究機関が設置されるのもこの頃で,例えば台北帝国大学では日本最初の「哺乳動物学」を掲げた研究室が設立された.1923年,日本で最初の哺乳類研究に関する会である「日本哺乳動物学会」が発足した.この学会は小規模でサロン的なものであり,1929年の渡瀬庄三郎教授の死去にともない立ち消えてしまう.本稿では,当時の哺乳類学の状況を「日本哺乳動物学会」の活動を通して概観する.そして,当時の日本を代表する2人の哺乳類学者,黒田長禮と岸田久吉の経歴と業績,両者の関係を紹介する.

連載 日本の哺乳類学,歴史的展開3
  • 安田 雅俊, 川田 伸一郎
    2018 年 58 巻 1 号 p. 175-182
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿は下稲葉・安田(2018)で詳しく述べられた日本の研究者による独自の哺乳類学における先駆者の一人,岸田久吉に関する情報を補完するものである.彼は1930年代に台湾の生物地理を理解する上でモグラの重要性に注目した.その成果として,彼は台湾にタイワンモグラMogera insularisおよび1ないし2種の独立種の存在を認め,さらにこれらを独立属として位置づけたが,これらの学名に関する記載をしなかった.これらは裸名(nomen nudum)となるが,近年の研究では台湾に複数種のモグラ(2007年に記載されたヤマジモグラMogera kanoanaおよびその遺伝的変異集団)が分布することが示唆されている.つまり岸田の台湾産モグラ類に関する予言は,あながち間違っていなかったと考えられる.

書評
追悼文
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