2022 年 62 巻 1 号 p. 11-20
ツキノワグマ(Ursus thibetanus)は秋季にミズナラ(Quercus crispula)やコナラ(Q. serrata)などの堅果類を大量に採食し脂肪を蓄える.しかしながら,堅果類に含まれ,渋みの成分であるタンニンは消費者にタンパク質消化率の低下や消化管の機能不全などの負の影響を及ぼすことが知られており,これまでツキノワグマがタンニンに対してどのように対応しているのかわかっていなかった.本研究でツキノワグマの唾液腺である耳下腺を分析したところ,本種がタンニン結合性唾液タンパク質であるプロリンリッチプロテイン(PRPs)の分泌能を有することを確認した.ツキノワグマのPRPsはプロリンを25%含み,コナラから抽出したタンニンに対する相対的な結合力はウシ血清アルブミンの13倍であった.耳下腺は9月以降大きく肥大し,その時期に耳下腺乾物1 gあたりのPRPs産生量も増加していた.