哺乳類科学
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62 巻, 1 号
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フィールド・ノート
原著論文
  • ―九州・祖母山系産ツキノワグマのDNA解析―
    西田 伸, 川原 一之, 安河内 彦輝, 江田 真毅, 小池 裕子, 岩本 俊孝
    2022 年 62 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    宮崎県西臼杵郡高千穂町上村の藤野家と,同じく高千穂町土呂久・佐藤家に保管されていた「熊の手足」の資料についてDNA解析を行い,情報の少ないツキノワグマ(Ursus thibetanus)九州個体群の遺伝的特徴について調査した.聞き取り調査から,明治中期~大正初期に祖母山系で捕獲されたと推測された佐藤家資料において,ミトコンドリアDNA コントロール領域648bp(ハプロタイプ:KU01)の解析に成功した.KU01は西日本系群に含まれる新しいタイプであった.先行研究の結果と合わせて考えると,絶滅したとされる九州個体群は他国内集団とは遺伝的に分化した独自の地域集団を形成していた可能性がある.

  • 大森 鑑能, 阿部 奈月, 細井 栄嗣
    2022 年 62 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    ツキノワグマ(Ursus thibetanus)は秋季にミズナラ(Quercus crispula)やコナラ(Q. serrata)などの堅果類を大量に採食し脂肪を蓄える.しかしながら,堅果類に含まれ,渋みの成分であるタンニンは消費者にタンパク質消化率の低下や消化管の機能不全などの負の影響を及ぼすことが知られており,これまでツキノワグマがタンニンに対してどのように対応しているのかわかっていなかった.本研究でツキノワグマの唾液腺である耳下腺を分析したところ,本種がタンニン結合性唾液タンパク質であるプロリンリッチプロテイン(PRPs)の分泌能を有することを確認した.ツキノワグマのPRPsはプロリンを25%含み,コナラから抽出したタンニンに対する相対的な結合力はウシ血清アルブミンの13倍であった.耳下腺は9月以降大きく肥大し,その時期に耳下腺乾物1 gあたりのPRPs産生量も増加していた.

  • 大西 尚樹, 今田 日菜子, 一ノ澤 友香
    2022 年 62 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    岩手県ではイノシシ(Sus scrofa)は明治期に絶滅したが,2007年以降県内各地で目撃されるようになった.岩手県におけるイノシシの出没情報(目撃,被害,捕獲)をまとめ,分布拡大の変遷を明らかにした.さらに,種の分布モデル(Species Distribution Model)を用いて,今後のイノシシの出没確率を予測した.2007年に奥州市で1件目撃された後,2010年まで岩手県内では目撃がなかったが,2011年より県南部を中心に目撃が増え,2018年には全県的に目撃されるようになった.被害は2012年から発生し,2014年から2017年にかけて増加した.この状況から2007年~2010年を移入期,2011年~2017年を拡大期,2018年以降を定着期と呼べるだろう.種の分布モデルによるイノシシの出没確率は標高,植生,土地利用データを組み合わせて用いることで,高い精度で予測することができた.2017年までの出没データを用いて出没確率を予測し,2018年および2019年に実際に出没した地点と比較したところ,予測確率が高い地点ほど実際に出没していることが確認された.今後は,出没確率の高い地域から生息密度が高まり,イノシシが出没するようになることが予測される.

短報
  • 江口 勇也, 嶌本 樹, 田村 典子, 坂西 梓里, 片平 浩孝
    2022 年 62 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    特定外来生物クリハラリスCallosciurus erythraeusの国内侵入とともに,それを固有宿主とする土壌伝播性の外来糞線虫Strongyloides callosciureusが持ち込まれ,静岡県および熊本県で蔓延が報告されている.この糞線虫による在来生態系への影響が懸念されるなか,寄生状況が調べられた地域は未だ限られており,リスク評価のための基礎情報は不足している.本研究では,関東地方のクリハラリス定着地域(神奈川県横浜市・横須賀市・鎌倉市,茨城県坂東市)においてS. callosciureusの寄生状況を明らかにすることを目的に,2016,2018,2019年度に駆除された124頭を検査した.その結果,糞線虫の寄生は横須賀市の8頭のみに見られ(寄生率13.33%,平均寄生虫体数0.40虫体,平均寄生強度3.00虫体),今回対象とした地域の寄生率は過去に報告されているものと比較し低いか,あるいは虫体自体が存在しない状況が示唆された.なお,得られた全ての虫体について18S rDNA領域および28S rDNA領域の部分配列を解読した結果,過去に浜松市のクリハラリスから得られたS. callosciureusと最も高い相同性(99.93%および100.00%)が示された.

  • 遠藤 友彦, 小寺 祐二
    2022 年 62 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    イノシシ(Sus scrofa)は国内に生息する哺乳類の中でも特に捕獲頭数が多く,近年では足くくりわなによる捕獲が増加している.しかし,同手法により捕獲される個体の性比・齢構成については詳細な把握が行われていない.そこで本研究では,それらの把握を長期にわたって行い,その捕獲特性を明らかにすることを目的とした.調査は栃木県那珂川町の食肉加工施設に搬入された試料を用いた.試料の性比はオス:メスで1.37:1であった.また齢構成については,雌雄共に0歳齢群の頭数が少なかった.オスは83.9%が2歳齢未満であったのに対し,メスは2歳齢以上の試料が37.2%とオスに比べ多かった.本試料から算出した捕獲確率が最大となる年齢は,オスで1.4歳,メスで2.1歳と推定された.イノシシのメスは生後1年未満で性成熟に達し繁殖可能となるため,足くくりわなで継続的にメスの亜成獣群以上を捕獲することは,本種の個体群抑制に有効であると言えるだろう.

報告
  • 東出 大志, 池田 敬, 七條 知哉, 野瀬 紹未, 栗山 武夫, 高木 俊, 横山 真弓
    2022 年 62 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    著者らは岐阜県の森林内に設置した自動撮影カメラによって,イノシシSus scrofa幼獣の頸部に噛みつき,捕獲を試みるニホンテンMartes melampusの姿を記録したため報告する.撮影時期は出産ピーク直後の6月下旬であり,襲われたイノシシは生後間もない幼獣であったと考えられる.ニホンテンがイノシシ幼獣を積極的に捕獲し,餌資源として利用しているかは不明であるが,イノシシ幼獣にとって潜在的な捕食者であると考えられる.

  • 遠藤 優, 吾田 佳穂, 佐藤 拓真, 古巻 史穂, 吉田 英利佳
    2022 年 62 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    2020年8月,新型コロナウイルスの影響により多くの学会やシンポジウムが中止となる中,我々は学生や若手研究者を対象とした哺乳類に関する研究交流会をオンライン上で開催した.本稿では,開催までの経緯や開催内容の記録を示すとともに,開催を通して見出されたオンライン集会の利点と課題点について報告する.オンライン集会の開催は,対面での開催と比べ情報漏洩の危険性が高く,交流の体制構築に工夫が求められるといった課題が見出された一方で,新規の参加者を取り込みやすい,質疑応答が活発になりやすいといった側面もあることがわかった.本稿で実践の詳細や課題を共有することで,哺乳類学会員の活動の一助となることを望む.

  • 落合 啓二, 須崎 加代子
    2022 年 62 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    ニホンカモシカCapricornis crispusの眼下腺こすりの機能を解明する一環として,青森県下北半島において1979年7月から1986年8月までの間に識別個体の行動を435日直接観察し,眼下腺こすりの頻度の季節変化を明らかにした.眼下腺こすりの頻度の季節変化については季節別にまとめた筆者による過去の報告があり,本報告ではこの過去の結果に未発表データを新たに加え,頻度の季節変化を月別に示した.過去の報告では成獣メスより成獣オスの方が眼下腺こすりを頻繁に行うこと,雌雄ともに交尾期である秋に頻度が高まり冬に低くなること,1・2歳の若齢個体はほとんど行わないことが明らかにされている.これらの既往結果は本結果でいずれも再確認され,例えば雌雄の違いに関しては年平均にして成獣オスは成獣メスの2.5倍の頻度で眼下腺こすりを行った.これら過去の知見の再確認に加え,本結果では眼下腺こすりは雌雄ともに秋だけでなく春にも頻度が高いこと,秋の頻度の増加は成獣メスより成獣オスにおいて顕著であること,冬の頻度の低下は厳冬期に当たる2月に最も顕著であること,眼下腺こすりと認められる行動の発現が3月の当年子において初めて観察されたことが新たに明らかとなった.

  • 高槻 成紀, 大貫 彩絵, 加古 菜甫子, 鈴木 詩織, 南 正人
    2022 年 62 巻 1 号 p. 61-67
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    2013年5月に八ヶ岳の亜高山帯のカラマツLarix kaempferi林で同じ樹木の高さ0.5 mと1.8 mに43対(86個)の巣箱を設置し,2013年9月,11月,2014年5月,9月の4回点検してヤマネGlirulus japonicusなどによる利用を調べた.その結果,利用されたのべ108個の巣箱のうち101個(93.5%)はヤマネが利用したことがわかった.巣箱は高さ1.8 mのほうが高さ0.5 mよりも有意に多く利用された.ヤマネによる利用率は通算で27.7%と高く,特に9月には40–50%と非常に高かった.ヤマネは巣材としてコケ,サルオガセ,樹皮などを利用し,巣箱ごとに特定の材料が重量のほとんどを占めていた.

  • 竹下 和貴, 林 岳彦, 横溝 裕行
    2022 年 62 巻 1 号 p. 69-79
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/02/09
    ジャーナル フリー

    回帰分析は,説明変数の変動から目的変数の変動を定量的に説明しようとする統計手法である.回帰分析には,目的変数と説明変数の関係の記述,説明変数による目的変数の予測,目的変数に対する説明変数の介入効果の推定という3つの目的が存在するが,それら3つの目的の間で説明変数の選択基準が異なることに対して,国内の哺乳類研究者の理解はあまり進んでいないように思われる.また,哺乳類研究では,集団(例えば個体群)の平均だけでなく,平均から外れたもの(低順位個体など)も,重要な研究対象となり得る.しかし,これまでの国内の哺乳類研究では,目的変数の条件付き期待値に着目した回帰分析が半ば無自覚的に選択される傾向があり,それ以外の値に対する回帰分析は行われてこなかった.本稿では,記述,予測,そして介入を目的とした回帰分析における統計学的な留意点を整理するとともに,分位点回帰と呼ばれる,任意の分位点に対する回帰直線を推定することができる統計手法の導入による哺乳類研究の今後の発展性を記した.

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