2022 年 62 巻 1 号 p. 69-79
回帰分析は,説明変数の変動から目的変数の変動を定量的に説明しようとする統計手法である.回帰分析には,目的変数と説明変数の関係の記述,説明変数による目的変数の予測,目的変数に対する説明変数の介入効果の推定という3つの目的が存在するが,それら3つの目的の間で説明変数の選択基準が異なることに対して,国内の哺乳類研究者の理解はあまり進んでいないように思われる.また,哺乳類研究では,集団(例えば個体群)の平均だけでなく,平均から外れたもの(低順位個体など)も,重要な研究対象となり得る.しかし,これまでの国内の哺乳類研究では,目的変数の条件付き期待値に着目した回帰分析が半ば無自覚的に選択される傾向があり,それ以外の値に対する回帰分析は行われてこなかった.本稿では,記述,予測,そして介入を目的とした回帰分析における統計学的な留意点を整理するとともに,分位点回帰と呼ばれる,任意の分位点に対する回帰直線を推定することができる統計手法の導入による哺乳類研究の今後の発展性を記した.