2025 年 65 巻 2 号 p. 111-128
外来生物法施行から20年が経過したが,近年もクリハラリスの新たな定着が確認されている.国内外来種を含む外来リス類のリスク管理のためには,過去の飼育記録等を精査し個体の逸出に関する情報を整理する必要がある.そこで日本動物園水族館協会(JAZA)が発行する年報に基づき,すべてのリス科動物を対象として1951年度~2011年度の国内の飼育状況の変遷を亜科レベルで分析した.次に樹上性のクリハラリス,キタリス,ニホンリスの2属3種を対象として飼育施設ごとの飼育頭数を分析した.JAZA会員施設に限れば,①リス類の飼育施設数と飼育頭数はともに2000年代に最大となったこと,②主な飼育種は外来種から在来種へと交代したこと,③特定外来生物クリハラリスの飼育頭数は大きく減少したことが明らかとなった.さらに,JAZA会員施設のうち周辺地域にクリハラリスが生息する5施設を選び,各施設の飼育状況,放飼や逸出の情報を整理したところ,①複数の施設が本種の放飼や逸出にかかわっていたこと,②少数の逸出であっても野外で新たに定着できる場合があること,③野外個体への人為的な餌資源の供給は個体群の定着率や増加率を高める可能性があることが明らかとなった.最後に,JAZA非会員の飼育施設が新規個体群の定着に関係したとみられる2つの事例を挙げ,外来リス類のリスク管理のために取り組むべき課題を明らかにした.