2025 年 65 巻 2 号 p. 183-188
コウモリ類はねぐら場所で多くの時間を費やすため,ねぐら利用様式の理解は保全のために重要である.トカラ列島と口永良部島の固有亜種エラブオオコウモリPteropus dasymallus dasymallusは環境省のレッドリストで絶滅危惧種IA類に選定されている.現状では特にトカラ列島個体群の観察例は極めて限られている.著者らは,2023年7月17日の日中に悪石島の集落から約200 m離れた谷沿いの森林内で休息中の1頭の成獣オスを観察した.このコウモリはねぐらでしばしば毛づくろいを行った.このコウモリは,日没後,ねぐら場所に近接する餌場でなわばり主張とみられる行動を示した.島ごとに生息環境は大きく異なるので,本亜種の様な保全ステータスの高い本亜種では,各島の個体群ごとに生態に関する情報の蓄積が必要と考えられ,本報告は保全のために意義がある.