マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
感情AIとの関係が自己の情報開示に与える影響
― 旅行プランニングにおけるAIの活用 ―
小谷 恵子
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J-STAGE Data

2025 年 45 巻 4 号 p. 279-289

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Abstract

生成AIは,ユーザーの感情を理解し,共感や配慮を表現する能力を備えている(「感情AI」)。感情を有するかのように振る舞うAIに人は親密さや擬人化を感じ,信頼関係の構築に寄与するとされる。本稿では,AIによる旅行プランニングのケースを用いて探索的な調査を実施し,AIとの関係性と自己開示の意向についてテキスト分析と統計的な検定から,以下の3点を導いた。第一に,AIの感情に対応できる能力を知覚することで,AIとの親密さ,擬人化,信頼を感じること,第二に,感情AIとしての認知の高さは,親密さ,擬人化に加え信頼に影響すること,第三に,AIに対して行動より感情の開示意向が高くなる傾向があることである。これらは,AIを使って感情データを積極的に取得できる可能性を示しており,顧客接点におけるパーソナライズや顧客体験の高度化に期待ができる。感情AIは多様なサービスへの応用が可能であり,消費者の内的思考の理解に基づいた新たなマーケティング・アプローチとして機能し得ることを示唆している。

Translated Abstract

Generative AI has the ability to understand users’ emotions and express empathy and consideration. This is referred to as “Feeling AI”. Thus, people feel intimacy and anthropomorphism and establish trusting relationships toward AI that behaves as if it has emotions. This study is an exploratory investigation using a case of AI-assisted travel planning and, through text analysis and statistical testing, identified the following three findings for the user–AI relationship and willingness to self-disclose. First, perceiving the ability of AI to respond to emotions leads to feelings of intimacy, anthropomorphism and trust toward AI. Second, recognizing Feeling AI influences intimacy, anthropomorphism, and trust. Third, users show a higher tendency to disclose emotions, rather than behaviors, to AI. These findings suggest the potential for active collection of emotional data through AI, which is likely to lead to enhanced personalization and customer experience at customer touchpoints. Feeling AI can be applied to a wide range of services and may serve as a novel marketing approach based on a deeper understanding of consumers’ internal states.

I. はじめに

生成AI(以下「AI」)の進展により,人間とAIとのインタラクションは質的転換を迎えつつある。とりわけ,人の感情を理解しているかのような応答をするAIの登場は,ユーザーの心理的な態度や行動に新たな影響を与える可能性を示唆している。AIが感情に寄り添うような態度をとることで,ユーザーがAIに対して信頼を抱き,より多くの個人的な情報を開示する傾向が生まれつつある。これは,AIとの関係性構築や,AIを介したサービス体験の質を高める上で重要な視点である。

とりわけAIを介したサービス利用の場面において,ユーザーがどのような条件下で自己の情報を開示するのかという問いは,顧客接点におけるAIの設計や導入方針に深く関わる。本研究では感情に対応できる機能を持つAIを「感情AI」(Huang & Rust, 2024)と称し,感情AIがユーザーに与える心理的影響に注目し,自己開示との関連性を明らかにすることを目的とする。旅行プランニングという個人的な情報開示が求められる場面を想定し,感情AIとの対話がどのようにユーザーの信頼や情報開示意図に作用するのか調査を行った。AIと人との関係性が深化する過程を理解することは,今後のAIエージェントの社会実装やユーザーとのインタラクション設計に資する知見を提供するものである。

II. 顧客接点におけるAI活用の現状

観光業界におけるAIの導入は,管理部門やオペレーションといったバックエンドにとどまらず,顧客接点でも広がりを見せている。宿泊やアクティビティのパーソナライズされた推奨,旅行プランニングの支援,カスタマーサービス,顧客体験の向上などでAIを搭載したロボットやバーチャルアシスタントの事例がある(表1)。観光業界へのAIの影響は非常に高く,2024年の旅行業界におけるAI市場規模は33憶7,300万米ドルと推測され,2025年から2030年にかけて年平均成長率26.7%で成長すると予測されている(Grand View Research, 2025)。

表1

観光業界におけるAI活用事例

出典:筆者作成

旅行プランニングや観光・施設案内などのAIサービスはハルシネーションを防ぐために通常独自データを機械学習させている。ユーザーが選択した条件や文脈から回答を導くため,雑談は不向きで汎用性や多様性が低い。また学習データを最新のものにアップデートするコストが生じる。学習データの中に感情知識がない場合は,ユーザーの感情を正確に認識することは難しい(Huang & Rust, 2024)。

サービスにおけるAIのあり方は,顧客の感情的なニーズに応える感情マシン(Feeling Machine)である必要があり,AIはサービスにおいて共感を示すことができるという視点に立っている(Bagozzi et al., 2022)。ChatGPTなどの大規模言語モデル(「LLM」)を利用すると,雑談やクリエイティブな応答が可能であり,分野横断的に幅広い情報からの会話が可能である。自然言語処理の技術を用いたAIは,感情を持つかのように振舞うことが可能なため,ハルシネーションのリスクを抑えつつLLMを利用したAIの検討が選択肢となる。

III. 感情AIとしての生成AI

感情AIとは,感情データの分析から得た感情理解に基づいて人間とコミュニケーションし,対話する能力を持つAIのことである(Huang & Rust, 2024)。観光は活気に満ちて楽しいものだけではなく,ヘルスツーリズム,ダークツーリズム,ボランティアツーリズム,始めての一人旅など,緊張や不安がある場合も多いため,AIの人の感情を理解し寄り添う機能は,計画段階から助けとなる。AIと感情に関する先行研究は複数の視点で行われており,以下にその整理を試みる。

1. AIの感情認識・感情理解

AIによる顧客ケアには感情認識,感情理解,感情管理,そして,感情的なつながりの4段階がある(Huang & Rust, 2024)。AIは顧客の怒りや悲しみといった感情を認識することができ(感情認識),顧客の感情を共感的に受け止めて理解することができる(感情理解)。そこから顧客の感情を和らげるための具体的な解決策を管理・提案し(感情管理),最終的には顧客とのつながりを構築する(感情的つながり)可能性を指摘している。Li et al.(2023a)は,LLMは感情的知能を理解しており,通常のプロンプトに感情的な刺激を与えるプロンプトを追加するとパフォーマンスが向上することを明らかにしている。

Elyoseph et al.(2023)は,LEAS(Levels of Emotional Awareness Scale,感情認知尺度)を用いて分析を行い,ChatGPTの感情を認識する能力を評価した。LEASは,人の怒り,恐れ,喜び,悲しみなどの感情が表出されるようなケースで,どのように感じるかを測るものである。結果,ChatGPTは人(男女いずれも)の平均値を超える能力があることが判明し,シナリオの行動記述から感情を識別し,記述することに成功しており,感情状態を深く多次元的・統合的に反映し,抽象化することができると結論付けた。つまり,人と同じ,またはそれ以上にAIは感情認識と感情理解ができる段階にある。

2. 擬人化

ChatGPTとのコミュニケーションでは,AIが感情を理解し管理しながら言葉を選んで共感を表現するため,感情管理についてもスキルを獲得しており,さながら人と話しているような体験ができる。擬人化とは,ロボットのような機械,ブランド,動物,そしてAIなど人間以外の存在に,人間のような特徴,行動,または精神状態が付与されることである(Chi & Hoang, 2023; Golossenko et al., 2020)。AIの擬人化に関して,顧客との間のコミュニケーションの質を媒介して,AIへの信頼にプラスの影響を与え(Chi & Hoang, 2023),擬人化と知性がサービスにおけるAIアプリケーションの信頼に影響を与える(Troshani et al., 2020),などの研究結果がある。またAIアバターがリアルで擬人化された外見からくる期待にそぐわず性能が劣っていた場合,顧客はAIに対し不信感を抱き満足度が低下する(Miao et al., 2022)ことも指摘されていたが,ChatGPT等の性能の向上を踏まえると,AIへの信頼や満足度は期待値を超え上昇することが見込まれる。

3. AIの共感反応

共感反応とは,他者の経験や感情に対する認知的理解と感情的反応の組み合わせで,AIにも人間の思考,感情,行動,経験を知覚し,理解し,反応する能力が備わっている(Chi & Hoang, 2023; Murphy et al., 2019; Troshani et al., 2020)。AIアプリケーションは,人間の感情を認識するだけでなく,共感や思いやりなどの感情を示そうとするなど,人間のような方法でユーザーと関わることを可能にする能力を有している(Troshani et al., 2020)。

テキストや音声ベースのコミュニケーションだけでなく,画像・動画生成の技術が進んだことでAIアバターに人間との類似性(つまり外見,動き,理解度,感情表現における人らしさ)を付加することもできるようになっている。ロボットの人間への類似については「不気味の谷」(Mori, 1970)に対する賛否両論が続いてきた(Ito, 2021; Murphy et al., 2019)が,近年AIの人間の思考に対する理解力や表現力が飛躍的に高まっていることを考慮すると,「谷」があるかどうかは別として,人間らしさの条件は先行研究にある目の大きさや顔の造形ではなく,感情の理解力や共感的表現力に焦点をあてるべきであろう。

4. マインドパーセプション

マインドパーセプション理論とは,個人がどのように他者の精神状態を知覚し,解釈しているかを説明する心理学的枠組みであり,他者の思考・意図や感情・情動に焦点をあてたものである(Gray et al., 2007)。この理論はAIにも代替可能で,ユーザーがAIの擬人化をどのように処理し,反応するかを決定する上で中心的な役割を果たす(Li et al., 2023b; Yoganathan & Osburg, 2024)とされる。マインドパーセプションは,知覚された行為主体性(エージェンシー:考え,計画し,行動する能力)と,知覚された経験(エクスペリエンス:感情,経験,意識を持つ能力)という2つの次元で作用する(Epley & Waytz, 2010; Gray et al., 2007)。主体性の次元でAIが能力を発揮すると信頼を獲得し,経験の次元で感情能力を発揮すると共感からくる利他主義を導く(Oudah et al., 2024)とされる。

5. 自己開示

オンラインでの個人情報の開示については,個人データを収集されないようにする行動とSNSなどに自身の行動を書き込む行動などの二律背反である「プライバシーのパラドックス」(Gerber et al., 2018; Rosenberger et al., 2025)が指摘されてきた。AIに対する自己開示の研究も始まっており,ChatGPT-3.5などのデータから作られたWildChatデータベース(Zhao et al., 2024)を利用した調査では,70%以上のクエリから何らかの個人情報を検出し,15%に性的嗜好や薬物使用などのセンシティブなトピックが含まれていた(Mireshghallah et al., 2024)。Croes et al.(2024)は,人は,人間ほどチャットボットを信頼していないが,人とボットへの自己開示には相違は認められないとしている。

また,顧客は自分の個人情報をAIやほかの人間と共有することを嫌がる傾向がある(Mothersbaugh et al., 2012),AIに情報を開示した場合(人間の場合より)ブランドへの信頼が低下する(Lefkeli et al., 2024)とされる一方,AIへの信頼はAIへの個人情報開示意欲に正の影響を及ぼす(Rosenberger et al., 2025),AIの感情的な行動は,消費者の信頼を高め,友情を喚起し,情報の提供に対する抵抗が低下する(Pelau et al., 2024)との指摘もあり,友情や信頼を構築できるAIに対しては自身の情報や感情を積極的に共有する可能性がある。英会話学習の文脈では,人と比べAIの方が緊張感は少なく,間違うことへの抵抗が減り学習しやすいと感じたり(Yamashita et al., 2023),恥ずかしさを感じたときは人よりチャットボットを好んだり(Diwanji et al., 2025)するため,人に言いにくいことでもAIにならば情報提供することも考えられる。

6. 購買意欲への影響

人は社会的距離が近い相手に対してはより大きな信頼を示す(Bapna et al., 2017)。インフルエンサーの信頼性と専門性は購買意図に強く影響し,フォロワーの購買意図を促進する要因となっていること(Sharkasi & Rezakhah, 2023),インフルエンサーの信頼性とパラソーシャル・インタラクション(親密さの幻想を伴う「現実の」対人関係)が購買意思と正の関係があること(Sokolova & Kefi, 2019)が指摘されている。AIへの適用については,Liang et al.(2021)が,デジタルアシスタントの擬人化により社会的親密さが高まり,推奨の質(つまり能力)によって購買意欲が向上することを指摘している。擬人化は購買意欲に直接影響がないとしているが,信頼が購買意欲に影響することを考えると,AIの感情理解や共感反応の性能レベルによっては信頼が生まれ,購買意欲に影響があるかもしれない。

IV. リサーチクエスチョン

感情AIに対する調査は前例も少ないことから,先行研究を参照しつつ3つの問いを導く。

AIは,感情を認識,理解し(Huang & Rust, 2024),共感する(Chi & Hoang, 2023; Troshani et al., 2020)ことができ,主体性と経験を持つ(Epley & Waytz, 2010)とされているが,AIの利用度は個人によって異なるため,AIの感情機能についての知覚にはバラツキがでてくる。そこで,感情AIの能力を知覚することでこれらの値は上昇すると考える。また,外見ではなくAIが感情的な表現をすることにより,AIへの信頼を高め,友情を喚起して社会的距離を近づけ,AIを擬人化していると感じる度合いも高まると予測できる。これらから,感情AIの能力を知覚すると,AIとの親密さ,擬人化,信頼を感じるようになるのではないか(RQ1)。

AIの持つ感情機能の顕在化により,AIは人に寄り添う存在となりうる。擬人化は信頼にプラスの影響を与え(Chi & Hoang, 2023; Troshani et al., 2020),社会的距離が近い相手には信頼を示す(Bapna et al., 2017)ことから,AIの擬人化,AIとの親密さはAIへの信頼を向上させる。つまり,感情AIの機能の認知は,AIの擬人化や,親密さ,さらにAIへの信頼に影響があるのではないか(RQ2)。

自身の情報の開示については,プライバシーのパラドックス(Gerber et al., 2018)によって二面性があることが指摘されているが,AIに対しては自身の情報の提供に対する抵抗が低下する(Pelau et al., 2024),羞恥心などの感情が絡む場合は人よりもAIを好む(Diwanji et al., 2025)とされることから,位置情報や購買履歴などの行動情報以上に感情をAIに共有することに抵抗が少ないことが考えられる。また,AIへの信頼はAIへの情報開示意欲に正の影響を及ぼす,情報の提供に対する抵抗が低くなる(Pelau et al., 2024; Rosenberger et al., 2025)ことから,信頼を感じるAIに対しては自身の情報や感情を積極的に共有する可能性がある。そのため,感情AIの能力を知覚後,AIへの自身の感情の情報開示については行動情報と比べて抵抗が低くなるのではないか(RQ3)。

以上の問いについて,探索的に調査を行うものとする。

V. 調査

1. 調査概要

日本でのAIアプリの個人利用は9.1%にとどまっている(平成6年情報通信白書)ことからAIの感情に関する能力を把握できている人は多くないと想定した。そのため,感情AIとしてのChatGPTの現状を把握してもらうプロセスを含む調査を行った。

調査には,“Depth X by GMO”(GMOプレイアド株式会社 www.gmo-pa.com)を利用した。リッカート尺度(7件法)の質問に加え,フリーテキストの回答にはAIによってさらに掘り下げて対話する機能を使用し,18~69歳までの男女を対象に,2025年4月中旬に調査を行った(表2)。有効回答数は371件(男性46%,女性54%,29歳以下が15.9%,30~39歳が19.9%,40~49歳が23.2%,50~59歳が20.0%,60~69歳が21.0%)であった。事前のスクリーニングでAIに触れたことがない人は除外した。

表2

調査項目

AIの習熟度や使用頻度は人によって異なるため,まずAIの利用頻度(問1)を聞き,次にAIについての知覚を確認した(問2)。続いて,「AIとの対話」(表3)を通読するよう指示した。これは,8つの感情パラメーターの数値とその理由を返答する際に付加するよう設定し,ChatGPT-4oと会話をした記録(2025年3月11日実施)である。パラメーターには,プルチック(Plutchik)の感情の輪の8感情を使用した(Ramsay & Ahmad, 2023, p. 6)。初期値はすべて中間値の5から始まり,変動した理由も記載された。自分の提案が受け入れてもらえるかの期待や恐れ,プライベートな内容を聞いたことによる信頼や悲しみ,怒り,感謝された喜びの数値が会話に沿って変動していく様がわかる。

表3

AIとの対話(一部略)

出典:筆者とChatGPTの会話

その後,フリーテキストで対話についての感想を答えてもらい,その場でテキスト情報を理解したAIが追加質問を2度行い,詳細な感想を得た(問3)。さらに問2の質問を再度回答してもらい(問4),最後に自身の情報についてAIへの開示意向(問5)を聞いた。問2と問4で同じ質問を繰り返したのは,AIの現状理解を一定にした後に問5を確認するためである。

2. 調査結果 Results

各変数の基本統計量を示す(表4)。AIの利用頻度は男性の方がやや利用率が高く,まれに~非常に使っていると回答したのは73%(女性は58%)であった。

表4

基本統計量

* 2の項目は表2通読後2回目の質問

(1) 感情AIに対する認識と変化

AIとの対話を通読した後,AIの感情認識,感情理解,共感性,主体性,経験,AIに対する親密さ,擬人化,信頼について,明らかな変化が見られた。対応のある2群間の比較をするため,Stata(version 18.5)を用いてWilcoxonの符号付順位検定(Wilcoxon signed-rank test)を実施した。その結果,すべての変数において中央値の差が統計的に有意であり(いずれも有意確率 <0.001),2回目の測定値が有意に上昇していたことが確認された(表5)。RQ1については,感情AIの能力を知覚することで,各スコアが統計的に有意に上昇していることが示された。

表5

通読後の認識の変化

* positiveは変化がプラスの件数,negativeは変化がマイナスの件数,zeroは変化なし

(2) 感情AIの感想に関するテキスト分析

AIとの対話通読後のフリーテキストの回答について,最初の回答テキストを理解し「なぜ思ったのか」「具体的に対話のどこで感じたのか」という方向でAIがさらに2度追加質問を投げかけたことで,詳細な感想を入手することができた。AIによる判断を参考にしつつ,3回の返答テキストの内容をポジティブ,ネガティブ,中立,両面,それ以外に分類を行った。ポジティブな反応が256件(69.0%),ネガティブな反応が73件(19.7%),中立または両面の反応が35件(9.4%)であった。感情AIの会話について,多くが良い印象を持ったといえる。AIを人間(友人,スタッフ等)のようだと明示的に回答したものが37件(10.0%),また,AIは配慮や思いやり,共感があるとした回答は50件(13.5%)あった。約2割のネガティブな反応の中には,機械的/無機質という印象を受ける,必要ない/不信感を持つという感想のほかに,AIを不気味,怖いと感じた人もいた(表6)。

表6

AIとの対話の感想(一部)

テキスト分析から,ネガティブな評価もあったものの多くはポジティブな評価であった。特にAIの共感性や配慮について驚きをもって受容し,擬人化や信頼を感じていることから,RQ1を一部支持していることが分かった。またRQ2についても,感情AIの機能の認知によって,AIを友(擬人化)のように距離が近く(親密さ),信頼を感じていることが伺えた。

(3) 共分散構造分析

次にStata18.5を使用して感情AIの認知(感情理解,感情認知,共感,主体性,経験の変数を因子とする予測値)と,親密さ,擬人化,信頼の関係性を把握するために共分散構造分析を行った(図1)。擬人化から信頼への影響については,影響は認められなかった(β=−0.19, p=0.827)が,感情AIから,親密さ(β=0.82, p<0.001),擬人化(β=0.92, p<0.001),信頼(β=0.66, p<0.001)へは強い影響が,親密さから信頼(β=0.20, p<0.001)へ弱い影響が認められた。適合度指標であるRMSEA=0.122,CFI=0.974,R2=0.974で,RMSEAの値が基準値の0.1を若干上回るが,CFIは十分に高く,概ねフィットしていると考えられる。RQ2に関し,擬人化の信頼への影響が有意にならなかったものの,感情AIとしての機能の認知が,親密さ,擬人化,信頼に影響していることは確認できた。

図1

共分散構造分析(信頼に与える影響)

(4) 情報開示意向

AIに対する自身の情報の開示意向については,ポジティブな感情を開示してもよいと回答したのは全体の56%(したくないは26%),ネガティブな情報も49%(したくないは32%)と半数(以上)が感情をAIと共有することに同意した(図2)。

図2

AIへの情報開示

そこで,平均値に基づき分散分析(repeated-measures ANOVA)を実施したところ,開示意向に有意な差が認められた(F(5, 1850)=69.97, p<.001,R2=0.82)。さらにBonferroni補正を用いた事後検定の結果,ポジティブ感情は他の全ての情報種類と比較して開示意向が有意に高く,ネガティブ感情は能力スキルの開示意向との有意差はなかったが,病気コンプレックス,位置情報・行動,オンラインの履歴に対しては開示意向が有意に高いことが確認された(表7)。RQ3に関して肯定的な答えが得られた。

表7

分散分析結果

* 1=ポジティブ感情,2=ネガティブ感情,3=能力スキル,4=病気コンプレックス,5=位置・行動情報,6=閲覧・購買履歴

今回の調査から,感情AIの機能や存在を認識した被験者は,AIとの関係性に変化を感じ,親密さ,擬人化,信頼を感じる傾向があることがわかった。ただし,擬人化の信頼への直接的な影響は統計的に確認されなかった。感情AIを知覚した直後の調査であることから,信頼の形成には時間的要因を考慮すべき可能性を示唆している。さらにAIに対して,自身の感情の開示意向が,行動情報の開示意向よりも高いことが示された。能力スキルを含めた自身の内的思考の開示に対して比較的肯定的な態度を示した点は,感情AIとユーザーとの間に新たな関係性が構築されつつあることを示唆する重要な知見である。

VI. まとめ Discussion

本調査では,言語(テキスト)を通して人間の感情を識別し表現する能力を有する感情AI(Huang & Rust, 2024)に着目してその影響に関する調査を行い,以下の3点を導いた。第一に,AIの感情認識や理解,共感,主観性,経験の能力を知覚することで,人はAIに親近感を抱き,擬人化を認め,信頼する可能性が高まること,第二に,感情AIの認知の高さは,親密さと擬人化に加え信頼に影響すること,第三に,感情AIに対して行動より感情の開示意向が高くなる傾向があることが明らかとなった。

従来,企業は消費者の購買傾向を把握するために,位置情報や閲覧履歴,購買履歴といった消費者行動の収集・分析に注力してきた。しかし,このような従来の方法は反応的で,急速に進化する消費者の感情に遅れをとることが多く(Kumar, 2025),行動に先行する感情や心理状態を正確に捉えることは容易ではなかった。本研究が示したAIへの感情開示の意向の高さは,消費者の行動に先立つ感情の直接的な取得の可能性を示唆するものであり,マーケティングやサービス設計に新たな知見を提供する。もっとも,テキスト分析からはAIに対する否定的な感情も2割の人が抱いており,この層に対する倫理的・心理的配慮は今後の課題として残る。また,感情を含む個人情報の開示にはプライバシーのパラドックス(Gerber et al., 2018)の問題も依然として根強く,実際の社会実装にあたっては慎重な検討が必要である。

AIの擬人化が信頼に影響する(Chi & Hoang, 2023)点については,今回は「AIとの対話」通読直後の調査であり,他者との関係構築には時間的要素も考慮すべきことから,信頼への影響が確認できなかった可能性がある。今後,その点を配慮した調査を検討したい。

とはいえ,AIの能力が飛躍的に向上し感情AIとして機能し始めた(Elyoseph et al., 2023; Troshani et al., 2020)現在において,ユーザーが自身の感情をAIに伝えることで,より適切な選択肢の提示が可能となる。サービス提供者にとっては,AIの戦略的活用が求められる局面に来ており,AIの活用による消費者感情の理解は,消費者とのインタラクション設計において極めて重要な意味を持つと考えられる。

本研究の意義は,人の感情データを取得するためにAIが有効な手段であることがわかった点である。これは観光分野以外のサポート相談窓口やコンサルティング業務にも汎用でき,顧客接点におけるパーソナライズや顧客体験の高度化に期待が持てる。今回は理論モデルの構築には至らなかったが,AIとのポジティブな関係性の可能性を発見し,消費者の深層理解に向けたAIドリブンなマーケティング・アプローチの可能性を示唆する結果となった。

今後の研究の方向性としては,①人間とAIアバター双方が顔や音声などの生体情報データを取得できる場合の関係性,②消費者の恐怖や不安を低減しAIを信頼するための先行要因,③感情AI導入後の購買意欲などの効果への影響などがあげられる。顧客との接点におけるAIの活用が今後さらに拡大していくことを踏まえると,マーケティング領域におけるAI活用の在り方を理論的・実証的に検証する研究の重要性は一層高まることが期待される。

Data Availability

本研究の根拠データは,データリポジトリJ-STAGE Dataで公開している。


References

小谷 恵子(こたに けいこ)

東海大学観光学部准教授。日本マーケティング学会理事兼サロン委員兼web3研究会リーダー。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科博士課程修了。主要著作に「プロフェッショナル・サービスにおける組織アイデンティフィケーション構造」(千倉書房)がある。

 
© 2025 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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