マーケティングレビュー
Online ISSN : 2435-0443
査読論文
SNSにおける大多数の他者の影響力の実証
― 「いいね」や「閲覧」数はユーザー行動に影響を及ぼすのか? ―
松井 彩子
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2021 年 2 巻 1 号 p. 30-37

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Abstract

近年,企業と消費者のコミュニケーションツールとしてはもちろん,消費者間の情報伝達手段としても,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下,SNS)は必要不可欠である。SNS上の情報に大多数のユーザーが関心を寄せた状態は,バズや炎上と呼ばれる。本論は,このバズや炎上のメカニズムの背景にある大多数の他者に着目し,社会的影響研究の理論に立ち返って,大多数の他者の集積がその他のユーザーに及ぼす影響を実証することを目的とする。実証には,シナリオ設定の実験手法を用いた。大多数の他者の集積規模の大小,情報発信者の持つフォロワー数の大小の,2×2の4つの実験群を設計した。各実験群につき464人,総計1,852人の被験者からの回答を得た結果,情報発信者の属性に関わらず,大多数の他者の集積数が大きいことが,それを目にした情報受信者のユーザー行動に正の影響を及ぼすことを実証した。具体的に,行動を起こす障壁が低い,「いいね」や「シェア」を付与する意向,並びに,行動を起こす障壁が相対的に高い,ブランドの情報収集意向,ブランド購買(利用)意向が高まることが明らかとなった。

Translated Abstract

In an online platform, most users often lurk the contents, and these lurkers are believed not to have any power. However, social media makes it possible to examine such lurkers by showing their viewing and liking behavior as numbers. Therefore, the aim of this paper is to empirically reveal the power of lurkers (majority users) using an experimental design. Two-way ANOVA (number of majority users/number of followers of the sender) and a t-test were used to prove that the number of majority users have positive power over other social media users. The results showed that majority users have a significant positive influence on liking and sharing of contents, as well as on intention to participate in and buy the brand. In particular, majority users have the same significant influence, even if they are gathering the contents from ordinary senders who are not influencers.

I. はじめに

近年,企業と消費者のコミュニケーションツールとしてはもちろん,消費者間の情報伝達手段としても,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下,SNS)は必要不可欠となっている。影響力を持つコンテンツはバズや炎上と呼ばれ,大多数の個人が関心を寄せる。このような大規模な反響の背景には,滅多に発言をしないが,情報拡散を後押しする「大多数の他者」の存在がある。本論でいう大多数の他者とは,SNS上の投稿に「閲覧数」として表示されたり,「いいね」・「シェア」を付与したりする個人の集積を指す。「閲覧数」として表示される個人は,コンテンツを閲覧しているにすぎないが,無意図的に数として累積されることで,情報の注目度を表す規模としての役割を持つ。「いいね」を付与する個人は,話題への関心の態度表明者であるだけでなく,数として他のユーザーに表示されたり,繋がりのあるユーザーに「いいね」を付与したことが通知されたりするため,態度表明以上に情報拡散者の役割を持ち,「シェア」をする個人もまた,情報拡散の役割を持つ。大多数の他者が,「閲覧」数,「いいね」数,「シェア」数として集積することで,それを閲覧した他のユーザーに影響を及ぼすことを,本論では大多数の他者の影響力と呼び,本論はその大多数の他者の影響力を明らかにすることを目的とする。

これらの大多数の他者は,研究によって様々な呼ばれ方をしてきた。1)ブランド・コミュニティーと類似するものの,集団内で特定のアイデンティティを共創・共有せずハッシュタグなどのキーワードを通してつながりのある人々に情報を媒介させる集団の場合にはブランド・パブリック(Brand Public)(Arvidsson & Caliandro, 2015),2)流動的かつ短期的に個人が集積するものの,メンバー間で相互作用を持たない集団と捉える場合にはeクラウド(E-crowds)(Wieczerzycki, 2016),3)個人の発言頻度の少なさに着目する場合には非発言者(Lurker)やサイレントマジョリティー(Silent Majority)(Nonnecke & Preece, 2000),4)非発言者の,情報を他者に拡散する役割に着目する場合にはアクティブラーカー(Active Lurker)(Takahashi, Fujimoto, & Yamasaki, 2003)や情報拡散者(Information Diffuser)(Chen, Li, Yao, & Zhou, 2019),5)オンライン上に存在だけが表示されるブランドファンを表す場合には仮想的な存在(MVP: Mere Virtual Presence)(Naylor, Lamberton, & West, 2012)と呼ばれる。本論で扱う,SNS上の投稿を「閲覧」し,「いいね」による態度表明や「シェア」による拡散行動を取る個人の集積は,情報拡散者や仮想的な存在(MVP)と近似しているが,これらも研究の文脈によって使い分けられていることから,本論では大多数の他者と表現する。

II. 先行研究レビュー

1. 大多数の他者の影響

個人が大多数の他者の影響を受けるというダイナミクスは,群衆や集団という視座のもと,社会心理学を中心に,社会的影響(Social Influence)研究に遡る。中でも社会的インパクト理論(Latane, 1981)は,社会的影響という他者からの影響の定量的な議論を可能にした。社会的インパクト理論が影響力の定量的な議論を可能にしたのは,当該理論の基本原則の一つである,個人が情報源から受ける影響力は,個人に影響を与える他者の数(Number),他者と個人の時間的・空間的距離(Immediacy),他者の影響の強度(Strength)の乗数で示される,ということに起因する。対面で発生する事象に限らず,SNSを対象にした近年の研究においても,他者の影響のダイナミクスは社会的インパクト理論に依拠して議論できる(Ding, Cheng, Duan, & Jin, 2017; Xue, 2019)。SNSの文脈においては,社会的インパクト理論における影響力の3つの源泉のうち,他者の数,並びに他者の影響の強度に注目されることが多く(Ding et al., 2017; Egebark & Ekström, 2018; Phua & Ahn, 2016),他者と個人の時間的・空間的距離は考慮されないことが多い。なぜなら,SNSユーザーは,インターネット環境さえ整えば,時間的・空間的な制限なくSNSにアクセスすることができるためである。SNS上の他者の数は,対面の現象と比べ大規模であるため,SNSの文脈で強調される他者の数,他者の影響の強度という影響力の源泉のうち,本論は特に他者の数に着目する。

2. SNSにおける大多数の他者の影響

社会的影響を理論的背景に持つSNSを対象とした研究において,他者の数は,「いいね」数などのコンテンツへのポジティブな事前評価に置き換えられてきた(Chen et al., 2019; Ding et al., 2017; Egebark & Ekström, 2018)。社会的影響に理論的背景を持たないものの,SNS上の大多数の他者の集積がそれを閲覧したユーザーの同調行動を促すことを実証したOh, Roumani, Nwankpa, and Hu(2017)は,「いいね」,「フォロワー」,「閲覧」,「コンテンツ」の数を大多数の他者の変数として使用した。「フォロワー」数は情報発信者の属性を,「コンテンツ」数は口コミ数を表現すると解釈できるため,これまでのマーケティング・コミュニケーション研究において重要視されてきた,情報拡散力の強い個人による発信や一般ユーザーによる積極的発言の影響を測定するための変数と考えられる。しかし,「閲覧」や「いいね」数は,情報拡散力を持たない個人であっても無意図的に表示されたり,容易に付与できたりするものであり,SNS上の大多数の他者の行動が数値として表現されたものと考えられる。したがって本論は,SNSにおける大多数の他者が「いいね」や「閲覧」の数として情報受信者に存在を認識されることによって発生する影響を明らかにする。

本来,SNS上の「いいね」や「シェア」,「閲覧」の数として集積している大多数の他者の数は,消費者の企業に対するエンゲージメント行動と捉えられてきた(Oh et al., 2017; Phua & Ahn, 2016; Xue, 2019)。それは,FacebookやTwitterをはじめ,企業やブランドの公式アカウント自体に付与する「いいね」や「フォロー」,企業やブランドの公式アカウントが発信する広告情報に対して付与される「いいね」や「シェア」,「閲覧数」に着目してきたからである。しかし,口コミ研究の進展からもわかる通り,企業やインフルエンサー発信の情報に限らず,消費者発信の情報に対しても,大多数の他者が集積し,その集積が他のユーザーに及ぼす影響を検討する必要性が高まっていると考えられる。したがって本論の新規性として,情報発信者の属性という分析視角を加える。インフルエンサーアカウント,一般アカウントのそれぞれの投稿に対して集積する大多数の他者の影響力を比較し,一般ユーザー発信の投稿であっても,大多数の他者の集積は,インフルエンサー発信の投稿に対して集積している大多数の他者と同様の影響力を持つことを明らかにする。

3. 仮説

SNSの文脈に社会的インパクト理論をあてはめれば,他者の時間的・空間的距離は考慮せず,影響力を与える他者の数が多く,他者の影響の強度が強い場合には,情報受信者へ与える影響力は大きくなるといえる。具体的に,事前付与された「いいね」数の規模が大きいことは,それを目にした情報受信者の,「いいね」付与意向を高めたり(Egebark & Ekström, 2018),ブランド評価とブランド好意に正の影響を与えたり(Phua & Ahn, 2016),情報拡散行動を促したりすることがわかっている(Chen et al., 2019)。したがって,H1を設定する。本論では,影響を受けた情報受信者のユーザー行動として,行動への障壁が低い,コンテンツへの行動;a)コンテンツへの「いいね」付与意向,b)コンテンツの「シェア」意向の2つ,そして相対的に行動への障壁が高い,ブランドへの行動;c)ブランド情報収集意向,d)ブランド購買(利用)意向の2つを設定する。行動への障壁が低い「閲覧」,「いいね」や「シェア」の付与と比較して,SNS上のコンテンツページから派生して能動的にブランド情報を収集したりブランド購買意向を高めたりすることは,ブランドへのエンゲージメント行動としてより強度なものであり,行動への障壁が高いことが考えられる。

H1 大多数の他者の集積規模が大きいことは,a)コンテンツへの「いいね」付与意向,b)コンテンツの「シェア」意向,c)ブランド情報収集意向,d)ブランド購買(利用)意向に正の影響を与える。

SNSのコンテンツは誰もが容易に作成できることより,情報発信者がインフルエンサーかどうかに関わらず,コンテンツが影響力を持ち得る可能性がある。つまり,アカウントが持つフォロワー数が少ない個人が情報発信した場合でも,大多数の他者の集積規模が大きければ,インフルエンサーが発信した場合と同等の影響力を発揮することが考えられる。したがって,H2を設定する。

H2 フォロワー数の多いユーザーが投稿した大多数の他者の集積規模が小さい投稿よりも,フォロワー数の少ないユーザーが投稿した大多数の他者の集積規模が大きい投稿の方が,a)コンテンツへの「いいね」付与意向,b)コンテンツの「シェア」意向,c)ブランド情報収集意向,d)ブランド購買(利用)意向に正の影響を与える。

III. 実験を用いた定量調査

1. 目的と手法

本実証の目的は,SNSにおける「いいね」や「閲覧」の数として情報受信者に認識される大多数の他者の集積が,その集積数を目にしたユーザーに及ぼす影響を検証することにある。仮説検証にあたり,他者の数を,投稿コンテンツに付与された「いいね」および「閲覧」数の大・小,情報発信者の影響の強度を,情報発信者のアカウントが持つフォロワー数の大・小で統制する(表1)。

表1

フォロワー数規模および大多数の他者の規模の統制条件

実験のシナリオには,Instagram,Twitter,Facebook,およびYouTubeの特徴を融合した架空のSNSプラットフォームの静止画を作成した。具体的に,飲食・ファッション・トラベルの3カテゴリーのブランド情報を用い,ブランド関連コンテンツを発信する架空の投稿者と,ブランド情報の架空の投稿コンテンツを用意した。被験者はそのブランドのアカウントページと架空の投稿者が発信した投稿コンテンツページの静止画を閲覧し,質問項目に回答した。実験の設計は,口コミの疑念効果を実証したKubota and Shibuya(2018)を参考にした。シナリオに架空のプラットフォーム,発信者,およびコンテンツを用いた理由は,被験者が未経験のブランドを使用することで,リアリティと新規性を感じる必要があるためである(Kubota & Shibuya, 2018)。加えて,既存のブランドや既存の情報発信者に対する被験者の嗜好性をコントロールするためにも,シナリオは新規に作成した。ブランドカテゴリーを飲食・ファッション・トラベルの3つに選定した理由は,オンライン口コミの影響を受けやすい製品・サービスカテゴリーであるためである(Kubota & Shibuya, 2018)。

条件設定には4つの実験群を用意した。Case 1は,フォロワー数の少ない情報発信者の投稿に対し,フォロワー数以上に大多数の他者が集積する状態を指す(大多数の他者:大/フォロワー数:小)。Case 2は,フォロワー数の多い情報発信者の投稿が,多くの大多数の他者により閲覧され,態度表明される状態を指す(大多数の他者:大/フォロワー数:大)。Case 3は,フォロワー数の少ない情報発信者の投稿に対し小規模の他者が集積する状態(大多数の他者:小/フォロワー数:小),そしてCase 4は,フォロワー数が多い情報発信者の投稿に対し大多数の他者の集積が小規模な状態であり,いわゆる見せかけのインフルエンサーやサクラを表す(大多数の他者:小/フォロワー数:大)。

被験者には,飲食・ファッション・トラベルの全てのカテゴリーについて,Case 1~Case 4の実験群がランダムに割り振られた。各投稿の静止画を閲覧する前に,被験者にシナリオ導入文を提示し,実験シナリオの架空のSNSにおいて,インフルエンサーと認識されるべき大多数の他者の集積規模,フォロワー数を説明した。これは,インフルエンサーと認識されるフォロワー数が,各SNSプラットフォームや被験者の主観により異なるためである。質問表の冒頭には,被験者のシナリオ理解度を測定するマニピュレーション・チェックを導入した。

2. 尺度

「閲覧数」と「いいね」数によって示される大多数の他者の集積規模は,集積規模大を1,集積規模小を0のダミー変数とした。なお,実験には低評価数の数値も表示したが,実在のSNSに近似させるとともに,炎上投稿ではないことを表現している。情報発信者の属性は,インフルエンサーと解釈できるフォロワー数が多い実験群を1,一般的なユーザーと捉えられるフォロワー数が少ない実験群を0のダミー変数とした。

「いいね」付与意向は,「この投稿内容に対して“いいね”ボタンを押したいと思う」のオリジナル単一項目を,「シェア」意向は,「この投稿内容を“拡散”したいと思う」のオリジナル単一項目を使用した。

ブランド情報収集意向は,「投稿されているブランド“XYZ”について,自分から積極的に情報収集しようと思う」,「投稿されているブランド“XYZ”について,将来的に継続して情報収集しようと思う」のオリジナルの2項目を使用した(飲食:Cronbach’s α=0.91,ファッション:Cronbach’s α=0.93,トラベル:Cronbach’s α=0.93)。ブランド購買(利用)意向は,Hollebeek, Glynn, and Brodie(2014)を参考に,「他のブランドと比べても,“XYZ”に行ってみたいと思う」,「他のブランドが,“XYZ”と同じ特徴を持っているとしても,私は“XYZ”に行ってみたいと思う」,「もし他のブランドで“XYZ”と同じくらい良いブランドがあっても,私は“XYZ”に行ってみたいと思う」,「もし他のブランドで“XYZ”と変わらないブランドがあっても,“XYZ”に行くことが賢い選択だと思う」の4項目を使用した(飲食:Cronbach’s α=0.96,ファッション:Cronbach’s α=0.97,トラベル:Cronbach’s α=0.97)。全ての回答は「1:非常にあてはまらない~7:非常にあてはまる」の7段階尺度で測定した。

3. データ

調査は,マイボイスコム株式会社のパネルを使用し,SNSの使用経験や行動に基づき,事前にスクリーニング調査を行った。本調査は2020年2月4日~2月6日の3日間に実施し,1,856人の有効回答を得た。各実験群の回答数は,464人である。被験者の主要属性は,全体のうち,女性が66.65%,平均年齢は31.69歳(SD=5.27),未婚者が55.71%であった。職業は,会社員・役員が48.11%と最も多く,次いで専業主婦・専業主夫が15.46%であった。

4. マニピュレーション・チェック

被験者が閲覧した実験群について,フォロワー数並びに大多数の他者の集積規模を正しく理解しているかどうか,マニピュレーション・チェックを行った。その結果,フォロワー数が多い実験群を閲覧した被験者の回答の方が,フォロワー数が少ない実験群を閲覧した被験者の回答と比して,0.1%水準で有意に高かった。同様に,大多数の他者の集積規模が大きい実験群の回答の方が,大多数の他者の集積規模が小さい実験群の回答と比して,0.1%水準で有意に高かった。したがって,被験者は実験群の規模をシナリオ通りに正しく理解したと解釈できる。

5. 仮説検証

H1の仮説検証にあたって,二元配置分散分析を行った。はじめに,表2にまとめた通り,大多数の他者の規模が情報拡散行動,すなわち,a)コンテンツへの「いいね」付与意向,b)コンテンツの「シェア」意向に及ぼす影響を検討した。a)コンテンツへの「いいね」付与意向については,飲食[F(1, 1,852)=4.84, p<0.05, η2=.003],ファッション[F(1, 1,852)=11.58, p<0.01, η2=.007],トラベル[F(1, 1,852)=11.92, p<0.01, η2=.007]において,大多数の他者の規模の主効果は有意であった。b)コンテンツの「シェア」意向については,飲食[F(1, 1,852)=4.76, p<0.05, η2=.003],ファッション[F(1, 1,852)=8.48, p<0.01, η2=.005],トラベル[F(1, 1,852)=10.15, p<0.01, η2=.006]において,大多数の他者の規模の主効果は有意であった。表2に示す通り,大多数の他者の規模が大きい場合に全ての従属変数の平均値が有意に高いことより,H1 a),H1 b)は支持された。なお,a)コンテンツへの「いいね」付与意向,b)コンテンツの「シェア」意向ともに,交互作用,並びに,フォロワーの規模による群間には有意な差は見られなかったことより,情報発信者属性よりも,大多数の他者の影響が従属変数に対して効くことが示唆された。

表2

主効果として大多数の他者が情報拡散行動に与える影響(H1)

※1)*** p<.001, ** p<.01, * p<.05, p<.1

※2)括弧内は標準偏差

続いて,表3にまとめた通り,大多数の他者の集積規模がブランドに関するユーザー行動,すなわち,c)ブランド情報収集意向,d)ブランド購買(利用)意向に及ぼす影響を検討した。c)ブランド情報収集意向については,飲食[F(1, 1,852)=7.68, p<0.01, η2=.005],ファッション[F(1, 1,852)=14.78, p<0.001, η2=.008],において,大多数の他者の集積規模の主効果は有意であったものの,トラベルについては大多数の他者の集積規模の有意な影響は見られなかった。d)ブランド購買(利用)意向については,飲食[F(1, 1,852)=14.95, p<0.001, η2=.008],ファッション[F(1, 1,852)=12.72, p<0.001, η2=.007],トラベル[F(1, 1,852)=4.31, p<0.05, η2=.003]において,大多数の他者の集積規模の主効果は有意であった。したがって表3に示す通り,大多数の他者の集積規模が大きい場合に従属変数の平均値が概ね有意に高いことより,H1 c)は一部が支持され,H1 d)は支持された。なお,c)ブランド情報収集意向,d)ブランド購買(利用)意向ともに,交互作用,並びに,フォロワーの規模による群間には有意な差は見られなかったことより,情報発信者属性よりも,大多数の他者の影響が従属変数に対して効くことが示唆された。

表3

主効果として大多数の他者がブランドへのユーザー行動意向に与える影響(H1)

※1)*** p<.001, ** p<.01, * p<.05, p<.1

※2)括弧内は標準偏差

H2の仮説検証にあたり,一般ユーザーによる投稿を表現したCase 1(大多数の他者:大/フォロワー数:小)とインフルエンサーによる投稿を表現したCase 4(大多数の他者:小/フォロワー数:大)の従属変数の平均値を片側t検定により比較した。表4の結果が示す通り,インフルエンサーが投稿した大多数の他者の集積規模が小さいコンテンツよりも,一般ユーザーが投稿した大多数の他者の集積規模が大きいコンテンツの方が,それを閲覧したユーザーの情報拡散行動意向や消費者行動意向を促すことが示唆され,H2は支持された。ただし,H1とH2の仮説は概ね支持されたものの,Mizumoto and Takeuchi(2008)の効果量の大きさを元にすれば,全体的に,効果量がほぼ算出できなかった点は留意したい。

表4

情報発信者属性による大多数の他者の影響(H2)

※1)*** p<.001, ** p<.01, * p<.05, p<.1

※2)括弧内は標準偏差

IV. 議論と結論

本論を通して,大多数の他者の集積数が大きいことが,それを目にした情報受信者のユーザー行動に正の影響を及ぼすことを実証した。具体的に,行動を起こす障壁が低い,「いいね」や「シェア」を付与して情報拡散する意向,並びに,行動を起こす障壁が相対的に高い,ブランドの情報収集意向,ブランド購買(利用)意向が高まることが明らかとなった。

本論の学術的な貢献は,SNS上の他者の影響を検証するにあたり,社会的インパクト理論を援用することでメカニズムの源流を理論的に解釈した点にある。さらに,既存研究において着目されてこなかった,情報発信者の属性による大多数の他者の影響の比較を行った上で,一般ユーザーの投稿に集積する大多数の他者の影響力を明らかにしたことにある。実務的な貢献として,既存研究においてほとんど明らかにされてこなかったSNS上で発言を伴わないユーザーが及ぼす他者への影響力を,規模の観点から明らかにした点にある。

これらの貢献の一方,本論には限界点もある。仮説検証に際して,仮説はほぼ支持されたものの,全ての影響力の効果量のスコアが小さい点を挙げる。これは,実験シナリオに架空の投稿内容や情報発信者やブランドを使用したために,被験者にとってのリアリティーがやや欠如してしまったことが原因だと考えられる。今後は,実在するSNS上のデータを用いて同様の検証を行うことが必要である。

References
 
© 2021 The Author(s).
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