源氏物語の研究の記念碑である村上らのデータベースに基づき,統計的な解析を行ったのが村上・今西(1999)である.彼らは源氏物語の全巻を4グループにわけ,数量化3類の2次元布置から,それらの成立順序に関して示唆的な結果をもたらした.しかし,本研究では村上・今西(1999)の数量化の解釈をより明瞭にするために,数量化3類の5次元布置の座標から計算される距離データに関してクラスター分析にかけたが,解釈不能な結果しか得られなかった.そこで,次に村上らのデータに分散安定化変換を適用し,変換後の値をクラスター分析にかけることで,村上・今西(1999)で推測された源氏物語の成立論に関する結果を示唆する樹形図を得た.この結果は,村上・今西(1999)の推論とは矛盾しないが,より統計学的に厳密にいうと,高々2グループの成立順序を示唆するものであった.今後は,より綿密に,文献学的知見と統計学的手法の融合による,相補的な考察が深められるべきである.