2021 年 33 巻 3 号 p. 114-129
文が内包する言語的要素の長さの均衡の様相を知るために,海外の計量言語学で研究に多用されているMenzerath – Altmannの法則(MAL)の手法を用いて調査を行った.『星の王子さま』の日本語訳2版を資料として,節の数で数えた文の長さと,その構成要素である節を形態素の個数や文字数で計って関数とし,MALの方程式を用いて回帰分析を行った.Altmannが述べている通り,翻訳文においても文と節との関係は減少関数が得られた.2つの版の回帰曲線は互いに似た傾向が見られた.一方で,分布している実データには減少関数から逸脱した箇所があり,添加や説明,挿入句,心内会話等を1文に盛り込んでいる例が見られた.これらは日本語らしい長さの均衡を意図的に崩し,表現上の効果を狙ったものと考えられる.