抄録
本稿では,岡崎敬語調査の調査データを対象にして,その変遷(経年変化)を見ることで,行き先尋ねに対する状況説明の言語行動の定型化の実相を明らかにした.「市役所」場面の調査データを対象に,応答の発話を,【きりだし】と,状況説明の【相手】,【用事】,【行き先】の構成要素に分けて,その変遷を分析した.その結果,【相手】【用事】は,言及しない方向へ変化をし,【行き先】要素は,「市役所」をはっきり言う方向へ変化していることが明らかになった.これはあいさつ表現の定型化の観点から見て,尋ねられた内容に関連する具体的要素に言及しないようになり,答えの核となる表現を具体的に示し,その表現だけに収束していく定型化パターンがあることを示したと言える.本稿の検証を通して,経年変化調査の結果から,文献資料単独で解明困難な言語事象の研究視点を得る言語変化研究の可能性を示した.